上中さん(千葉県千葉市)
病気を患い、人生にふてくされてばかりいた母に、
「メールでも始めたら?」
と携帯電話をプレゼントした。
「どうせ無理だから。どうせ忘れちゃうから。どうせ…」
母は、説明書を読もうとすらしてくれなかった。
ある日、息子が母にメールを送った。
《自転車に乗れるようになったよ》
すると、すぐに母は息子にお祝いの電話をかけてきてくれた。
また、ある日。
《逆上がりできるようになったよ》
すると、母はまたすぐに電話をかけてきてくれた。
ところが、ある日。
《かけ算九九言えるようになったよ》
という息子のメールに、母が電話をかけてきてくれなかったのだ。
10分経っても、30分経っても、1時間経っても……。
そして、三時間ほどが経過したときだった。
《ばあちゃんも、めいるうてるようになつたよ》
何歳になっても、できるようになるのはうれしい。母の不細工なメールは、そう言っているようだった。