ほっこり親孝行ものがたり「第12回『生んでくれて、ありがとう』」志賀内泰弘

今日は、母親が入居している施設を訪ねる日だ。本当は、うちで一緒に暮らしたかった。でも、我が家の家業は居酒屋。バイト不足もあって、午後から深夜までほとんど時間が自由にならない。24時間、母に付き添ってやれないのだ。それでも、定休の水曜日には、お店のトビキリのネタのお惣菜を持って、母親に会いに行く。

お店をしていると、お酒の入ったお客さんが、予期せぬトラブルを起こしてくれるので、「いい話」というのが少ない。加えて、クレーム。さらには、旦那が「また腰やってまった~」と、接骨院に駆け込むという日々。もう毎日が、戦争だ。

そんな中、今日は母に、良い報告ができるのでウキウキしていた。
「ねえねえ、お母さん、ヒカルが学校の作文コンクールで入賞したのよ」
「そうかい、えらいねぇヒカルちゃん」
「本当はさ、連れて来たかったんだけどさ、学校だからごめんね」
ヒカルは小学3年生男子。ヤンチャで手を焼いている。お店の片隅で夕食を食べ、そこで宿題もする。そのため、常連のお客さんにもかわいがられているのだが、大人といつも接していることから、生意気で困る。
「ますます文字を読むのが辛くてさ、キミコ読んでよ」
「うん」
私は、母に、息子の作文を読んで聞かせた。それは、おおよそ、こんな内容だ。

ぼくのお母さんは、はたらいています。休んでいるのを見たことがありません。そのお母さんが、この前、かぜをひいてしまいました。お店に出られないので、お母さんのいとこのノブちゃんがおうえんに来てくれました。そして、おかあさんにおかゆを作ってくれました。ミカンの缶詰も切って出してくれました。その時、思い出しました。ぼくが、ようちえんのとき、足のほねをおって入院してたとき、まいあさ、びょういんへおみまいに来てくれました。まいばん、ねるのは3時くらいなのに。足がなおって、また走れるようになりました。みんなと一緒にあそべるようになれました。そのとき思いました。それはおかあさんのおかげです。お母さん、生んでくれて、ありがとう」

「キミコ、おまえ、いい子に育てたねぇ」
母は、涙して言ってくれた。私は、母のうるんだ瞳をみつめ、思い切って言ってみた。ちょっと、勇気を出して。
「お母さん、私を生んでくれて、ありがとう」
「いやだよ、キミコ。照れるじゃないか」

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