『雀の涙』|親孝行大賞受賞作品

【ペンネーム】BKHさん
【性別】女性
【年齢】50代
【住所】愛知県名古屋市

【「親孝行大賞」のタイトル】
雀の涙

【「親孝行大賞」の本文】
私は、大学四年生の最後の三月までお小遣いをもらっていた。もちろんアルバイトはしていたが、遊ぶためにお金はいくらあっても足りなかった。

それには一応理由があり、社会人になったら親には一切援助されない覚悟で、だったらしっかり、もらえる時にもらっておこうという考えだった。

あれから約三十年。結婚、出産を経て子どもも手が離れてゆき、父は他界。今は、母の介護に片足を突っ込んでいる。遠く離れた実家へ行くたび、年老いた母だけでは処理しきれないモノたちと少しずつ向き合っている。

昔は大勢の来客があった実家には、五枚組の食器セットから、天麩羅をのせるだけの謎の籠皿、松花堂弁当に見立てる塗りの箱たち…。とにかく、食器棚の中は当時のままのお祭り騒ぎだ。その中に、萩焼の急須と二つの湯飲みがある。

これはね、あなたが初任給をもらった時、封筒に「雀の涙」って書いて五千円を入れて私たちにくれて。お父さんと記念にって少しお金を足して買ったのよ。だから、これは捨てないでね。

初めて聞く話だ。自分のことなのに、全く覚えていなかった。同時に、エッヘン、私ってエライ!…だけど、二十歳過ぎまで、ちゃっかりスネカジリしていたのに、たったの、ご、五千円!

でも、スネカジリのお陰なのか、比較的自分たちで何とかやりくりしている。あの時の気持ちをカタチで残しておいてくれた両親に感謝。そして今は亡き父の大きな優しさを思い出す。

この湯のみで夫婦そろってお茶を飲んでいたんだね。初心にかえる。もっと親孝行しなくちゃね。

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