「365日の親孝行」(レベラル社)の発売に際して、書店さんにご挨拶周りに出掛けた時のことです。その一つの書店さんでは、レジ近くに50冊ほど山積みにし、さらにパネルまで貼って「イチオシ」で展示して下さっていました。
売り場責任者の方と、編集長と三人で、
「年末に向けて、帰省する方に手に取っていただきたいですね」
「そういえば、私もなかなか両親に会いに行けなくて」
「近くに住んでいても、いつでも会えるからって思ってしまうんですよね」
「私は、両親とも亡くしてしまったので親孝行できないんですよ」
などと、それぞれの「親孝行」についておしゃべりしていた時のことです。
すぐ近くの椅子に座っていた40代の女性が、
「あの~」
と声を掛けてきました。
私たち三人は、その女性の方を向きました。
「わたし、その本を買おうと思って、ここで読み始めたら止まらなくて」
と。
私は、
「ありがとうございます」
と一礼しました。
書店員さんが、
「こちらの方が、著者さんなんですよ」
と紹介して下さったので、もう一度、
「ありがとうございます。嬉しいです」
と言いました。すると、何もお聞きしたわけではないのに、こんな話を始められました。
昨年、大きな病気に罹られたとのこと。もうダメかというような病気だったそうです。その時、嫁いだ娘さんが、そばにずっと寄り添ってくれたそうです。それに、どれほど励まされたことがわからないとおっしゃるのです。
「この本の中に、病気の両親の横で寝るとか、手をさするとかいうのがあって、自分たち母娘と重なってしまいました。この本、買います」
と。
実は、こんな経験は初めてでした。最初の本を出してから20年ほどが経ちます。書店で自分の本を見かけると、ついつい気になります。
誰か買ってくれないかなあ。あっ・・・手に取ってくれた。そのままレジに行って欲しいなあ。・・・あ~あ、元に戻して行っていしまった。残念。
そんなことが何度もありました。
書店さんで、初めて私の本を買って下さる方と出会ったのでした。それも、辛いご病気を、私が書いたもので、癒すことができた。これほど、嬉しいことはありません。編集長さんも書店員さんも、同様に、そんな現場に立ち会えたのは始めてだと言います。
「もしご迷惑でなかったら、サインさせていただきましょうか?」
「えっ、えっ、ほんとですか、お願いします」
その場で記念写真を撮って、握手もさせていただきました。
なんでも、ご病気は検査の結果、最悪の状態を免れたとのこと。そして、その後、娘さんにお孫さんが生まれて幸せだと。
そこへ、エレベーターが開き、娘さんがベビーカーを押して現れました。
「これが娘と孫です」
女性が事情を説明し、再び、記念写真を撮りました。
この本は、ひょっとしたら、心の弱っている人を励ます力があるのかもしれない。ああ、作家になって良かった!そう思った一日でした。
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