長野県上伊那郡
かきちゃん様の作品
65歳にして食道がんに罹ってしまい入院。その宣告が受け容れられず、でもどうしようもなくて一人もがいていた時、長男から電話がありました。
直ぐに見舞いに行けない詫びかと思いきや、治療法からセカンドオピニオンのことやらいろいろ調べていて、うじうじしている私の考えるべきことを率直に伝えてくれました。
「そんなこと言ったって、どうしようもないじゃないか」と答えた私に、「こうして欲しいと決めてくれれば、後は俺がやる。ガンセンターとも直接話をした。任せろ」と言ってきたのです。
長男と何回かのやりとりがあった後、結局、地元の病院に全てを任せたのですが、あの「俺に任せろ」と言ってくれた言葉に勇気を貰い、そこでようやく病気を受け容れることができたと思います。
入院して初めて見舞いに来てくれた時に心底「何とか治りたい」と思いましたし、なかなか治療効果が出ない間も諦めない気持ちを持ち続けることができました。
親孝行など毛頭求めるつもりはありませんでしたが、気持ちが通じる親子だからでしょうか、子どもの真心が伝わった時は「これが親孝行か」と実感しました。
コロナでここ2年近く長男と会えていませんが、月に2~3度は孫からテレビ電話をかけさせてくれています。
その都度、画面の隅っこで垣間見ることができる長男の顔を探してしまいます。
孫とならば話題も豊富ですが、子どもとは話題が持てません。要件だけ話したら終わりという関係ですが、それでも子どもとの強い心のつながりを今でも求めているんだと思います。
病気に罹ったことで、自分がいかに弱い人間であるかを思い知らされましたが、家族の精神的な支えが生きる力になっていることも確認できました。
親孝行というのは形で決まるものではなく、こころの在り様で決まるものです。
「俺に任せろ」は何の保証もない長男の心意気だったかも知れませんが、最大限のことを親にしてやろうとする決意であったことは確かです。あいつは、優しい親孝行な息子であります。