『お父さんの誕生日』|親孝行大賞受賞作品

三重県四日市
二村さん様 の作品

「もう出かける?今日、お父さんの誕生日だから、出かける前におめでとうくらい言ったら?」

洗面所で髪を整えている長女にそう言うと、

「分かっとる」

と、めんどくさそうに答える。仕事を始めてまだ3か月の長女は、朝の段取りに必死だ。出かける支度を終えると普段は玄関へ直行だが、その日の朝はキッチンへ小走りに立ち寄った。

長女はキッチンのドアを開けると、朝食を食べている夫に向かって、
「なぁ、お父さん、いくつになったん?」
と、ドアに手をかけたまま、ぶっきらぼうに聞いた。
「53やけど」
夫がびっくりした顔で言うと、
「まだ53歳か、54歳かと思ったわ」
そう言ってキッチンのドアを閉め、仕事に出かけた。

言葉足らずで、うまく優しく言えない長女の、精一杯の「おめでとう」の言葉がおかしくて、夫と私は目を合わせてクスクス笑った。夫はやけに嬉しそうで、

「あいつ、俺の誕生日覚えとったんやな」

とにやけているので、私が長女にあおったことは黙っておいた。

やっと起きて来た中学生の長男は、夫の前に座るとすぐに、

「お父さん、誕生日やろ、おめでとう。今日、ケーキどうするの?」

と、笑顔で言った。長女とは真逆の「おめでとう」に、夫と私はまた目を合わせてニヤッと笑った。

肢体不自由の二女は、夫が仕事に出かけようとしてもまだ眠っている。通所施設に出かける直前まで、人工呼吸器を付けて寝ている毎日だ。声を掛けたくらいでは起きない。無防備な寝顔を見ながら、夫と目を合わせて、

「この子もなかなかやるな」

と笑い合った。三人子どもから受ける笑いのひとときを、心から幸せだと感じた、夫の誕生日の朝だった。

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