ちょっといい話『物をもらう『思いやり』』志賀内泰弘

よくこんな話を耳にします。電車の中で青年が、お年寄りに席を譲ろうとした。すると、
「私はまだ、そんな歳じゃない」
と言い、断られたというのです。そんな話が、新聞の投稿欄に掲載され物議を呼んだことがありました。
「私は、お婆さんと呼ばれるのが嫌いです。だから断った女性の気持ちがよくわかります」
「せっかくの若者の気持ちを、受けてあげてもよかったのでありませんか。そうしないと、若者は本当に困った人にも、二度と席を譲らなくなってしまう」
親切することは素晴らしいです。でも、相手があってのこと。親切は時に、いらぬ「おせっかい」になることもあります。

親切「する人」、「してもらう人」の心が、ぴったり合った時、その二人は幸せになれる。上手くいくこともいかないこともある。だから、親切はたくさんこなして、日々訓練することが大切だと思うのです。

これは、「物」のやりとりでも同じことだと思っています。
父がお世話になったお医者さんがいます。その後、母が診てもらい、さらに妻も私もお世話になりました。生前に父から、そのお医者さんにお歳暮とお中元を生涯贈るようにと頼まれました。それは、遺言にも似た言い付けでした。

毎回、先生の奥様から、丁寧なお礼のハガキが届きます。その末尾には、「何もしておりませんので、今後は御放念くださいませ」と書かれている。しかし、こちらは止めるわけにはいきません。父の遺言だし、本当に心から感謝しているからです。

きっと、先生は気持ちの負担になっておられるのでしょう。何回かに一度、「お返し」の品が届きます。それを受け取ると、私は心が重くなります。
「あ~感謝の気持ちをお贈りしているつもりだけど、先生の心の負担になってしまっているんだなぁ」
と。

実は、それが反対の立場になることがあります。相談事に乗り、ちょっとだけお世話をした人からお礼が送られてくるのです。それも、過大な品で恐縮してしまう。電話をして、
「こんな気遣いしなくてもいいよ。今回は有難く頂戴するけど、これっ切りにしてね」
と伝えます。

しかし、こちらが思うよりも、ずっと相手の気持ちが大きいようで、お歳暮とお中元のシーズンになると贈り物が届きます。そのうちの一人は、もう15年以上も続いています。だから、お世話になっているお医者さんの心境がよくわかるのです。なんか心苦しくて、私も何回かに一度、お返しの品を送ります。
 
幼い頃から、母に教えられたことがあります。
「もらったら、お返ししないといけない」
もし、「旅行に行ったからお土産ね」と渡されたら、「この前はありがとうね。うちも旅行に行ったので、ちょっとだけどお饅頭買って来たよ」と。もし、お返ししないと、口には出さないけど何を思われるかわからない。それだけならいいけど、誰から「あの家は、貰いっぱなし」と噂されると。

親切という行為も、差し上げる物も、「受ける側」「もらう側」もなかなかたいへんだということがわかります。どうしたら、「うれしい」という気持ちが伝わるか。「もらう」のは、「あげる」ことよりも、ずっと難しいのかもしれません。

さて、こんなことがありました。ちょっとコンビニに出掛けての帰り道、角を曲がると私の家の前に宅配便のトラックが停まっていました。マーフィーの法則ではありませんが、ほんの10分出掛けた時に限って荷物が届くのです。

手を振って、「そこは私のウチです」と大声で言いました。息をずませて戻り、玄関先で荷物を受け取ると、宅配便のお兄さんは「よかった~」と本当に嬉しそうな顔をしました。また来なくてはならなくなりますからね。

トラックが去った後、家の鍵を開けたところで、段ボールの宛名を見てびっくり。
「あ~また間違いだよ」
同じ町内で、二筋南に、私と同じ苗字のお宅があるのです。郵便も宅配便も、よく誤配されます。だから、いつもなら宛名をよく確認して受け取るのですが、その日に限って確認を怠ってしまったのです。

しばしば、うちの郵便受けに入っていたDМを、そのお宅の郵便受けに入れに行きます。宅配便の会社に電話をしましたが、繋がりません。仕方がない。私は、荷物を抱えて、そのお宅へ向かいました。すると、ご主人が出て来られ、
「あ~わざわざすみません。スマホに配達済みと連絡があったので、間違いが起きたに違いないと思い、宅配業者に連絡しようと思っていたところなんです」
と。早く届けてよかったと思いました。
 
その翌朝のことです。ピンポーンと玄関の呼び鈴が鳴りました。昨日の宅配便のお兄さんと、その上司でした。
「昨日は申し訳ございませんでした。わざわざ、代わりにお届けいただいたそうで」
と、二人して深々と頭を下げられのるので恐縮してしまいました。
「同じ町内のことですから、全然気にしてませんよ」
と言いいつつ、お兄さんの顔を見ると、青ざめてひきつっているのがわかりました。相当、上司に叱られたのに違いありません。でも、こちらにしてみれば、誤配は日常茶飯事。本心から何とも思っていないのです。

上司の人が、紙の手下げを差し出されました。中身は洋菓子のようです。
「これは、ほんの少しなんですかお詫びのしるしです」
「いえいえ、そんなんいりません」
「これは社の決まり事ですから遠慮なく・・・」
と言ったところで、またお兄さんと眼が合いました。涙ぐんでいるかに見えたのです。私は、それを見たとたん、さっきと違う言葉が口から出ました。
「そうですか、それでしたら遠慮なく頂戴します」
そのとたん、二人が笑顔になりました。特に、お兄さんは、身体がヘナヘナとなるように緊張からとき解かれたように見えました。
 
別に迷惑だとも思っていないし、感謝されるものでもない。だから、物をいただく理由もない。でも、もらうことで、こんなにも人に喜んでもらえるなんて感激してしまいました。「あげる」のも難しいけれど、「もらう」のも難しい。

物をもらうのにも、「思いやり」が必要なですねぇ。「もらう達人」を目指すのもいいかなと思った出来事でした。

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