友人・Мさんから久しぶりに連絡がありました。
「こんないいことがあったんです・・・でも気がかりで」
と。
Мさんは目が不自由です。
私の小説「5分で涙があふれて止まらないお話」(PHP研究所)に収められているショートストーリーのモデルにもなっていただいた人です。
目が不自由なだけでたいへんなのに、奥さんが病気で倒れてしまいました。ふたり暮らし。外出も含めて、日常生活のほとんどを自分でやっていたМさんでしたが、さすがに奥さんの介護、通院の付き添いで疲れ果てていると言います。
わかります、わかります。志賀内も、両親とカミさんの看病後の経験がありますから、痛いほどその苦労が理解できます。
それでも、ヘルパーさんや友達の手を借りつつ、頑張っておられるのでした。
そのМさんが、
「親切にしてもらっていた人がいるんですが、このところ会えないので心配しているんじゃないかと気になっているんです」
と言います。話を聞くと・・・。
Мさんは、奥さんのリハビリを兼ねて、よく一緒に散歩に出掛けていました。その途中、喫茶店が好きな奥さんが「あ、オシャレなお店、入りましょ」「いいね」と言ったのが、喫茶A。ところが、ちょっと難題がありました。
その喫茶店は、入口が階段を何段か上がったところにあったのです。奥さんは病気の後遺症で足が不自由になり、歩行器を利用して散歩に出掛けます。Мさんが、自分と奥さん二人共の足元を気遣いつつ、「よいしょ」と歩行器をステップの上まで運びました。目が不自由だと、そんなこともひと苦労になのです。
やがて、二人のお気に入りのお店になり、何度か訪ねるうちに、ママさんとも、顔なじみになりました。
そして、何度か訪ねたある日のことでした。ママさんが店の外まで出て待っていてくれ、二人の足元を気遣いつつ、歩行器を店内まで運んでくれました。それから、毎度毎度、「いつもの時間」に外まで出て来てくれて、歩行器を運んでこれるようになったというのです。
Мさんは、どうしてママさんが、我々がやって来たのがわかるのか不思議だと言います。見えないから、お店の構造がわかりません。たぶん、奥のキッチンから「もうそろそろかも・・・」と、何度も窓越しに外を見ていてくれるに違いないと思ったそうです。
毎日行くわけではないのです。ということは・・・想像するにママさんは、「今日はいらっしゃるかしら」と、毎日、同じくらいの時刻になると店の外をチラチラと見ていたに違いありません。
奥さんと一緒に食べるモーニングサービスのトーストは、最高に美味しいといいます。
しかし、最近、奥さんの具合が悪化してしまいました。そのため、一緒に散歩にでかけることもままならなくなりました。
「ママさん、心配してるんじゃないかな~」
奥さんの病状が回復して、また一緒に喫茶店に行けるようになることを祈っています。