(株)モスフードサービス専務取締役を務められ、現在office igatta代表としてコンサルタントとして活躍されている田村茂さんが接客に携わる人達が待望の本を出されました。
「外食マネージャーのためのぶれないプライドの創り方」(同友館)
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今日は、その中から、志賀内が大好きなタクシーのエピソードを紹介しましょう。
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「心のドメイン(領域)を広げる」
ある税理士事務所を訪ねた時のことです。新宿駅西口から歩いて10分程度のところにあるその事務所は、普段は徒歩でおじゃまするのですが、その日は駅に着いたとたん大振りの雨。訪問時間ギリギリだったこともあり、タクシーに飛び乗りました。
「西新宿7丁目の○○ビルまでお願いします。近くてすみません」
運転手A:「(まったく愛想も無く)あー、そこまでだったら歩いたほうが早いんじゃない」
いかにも短い距離の乗車は迷惑といった態度でした。不愉快な気持ちになりましたが、せいぜいワンメーターの付き合いと思い、荒い運転をがまんしながら乗車しました。
タクシーを降り、気持ちを切り替えて事務所に入ったつもりでしたが、つい、税理士の先生に、自分のおさまらない気持ちをこぼしてしまいました。
打合せを終えて会社に帰る時になっても雨は降りやみません。また駅までタクシーを利用することにしました。運よく事務所の前で空車を拾うことができました。
「JR新宿駅西口までお願いします。近くてすみません」
おそるおそるお願いしました。
運転手B:「いえいえお客さん、距離ではありません。ご利用いただけるだけで嬉しいのです。お仕事の帰りですよね。お疲れでしょう。短い時間でもゆっくりお過ごしください」
行きのタクシーとは雲泥の差。それまでの気分の悪さが一挙に吹っ飛びました。短い時間でしたが、とても気持ちの良い時間でした。
この違いは何だろう。そうか!
行きのタクシーの運転手さんは「単に人を運び、少しでもお金を稼ぐ人」、帰りの運転手さんは「ご利用いただくお客様のお役に立つ人」
「心のドメイン(領域)」に大きな違いがあることに気がつきました。
「どうせ仕事をするなら感謝される仕事をしよう」
これはモスの創業者が常々言っていたことで、まさに「お役立ちのドメイン」です。お店のスタッフは単なる「売り子」ではなく、お店を利用するお客様にとって「お役に立つ人」でなければならないことを意味します。
〇作業や技術よりも大切なものとは
このケースは、外食業におけるマネージャー職の大切な役割を示唆してくれます。マネージャー職は、最初の教育(オリエンテーション)で、作業や技術を教える前に、仕事の「使命」「役割」といった、「心のドメイン」のあり方を教えることが重要です。
われわれの仕事は、ご注文いただいたメニューを提供するだけの「作業をする人」ではありません。お店をご利用いただいたお客様の「お役に立つ人」であることをしっかり心に宿していただくことが重要です。
お店は「お客様に心の満足を感じていただく場」、「お客様に幸せを提供する場」です。
それを実現するために、スタッフにはまず心の教育として、「お役に立つ人」意識をしっかり刻み込んでいただくことが必要です。それを心に宿すことによって、働く意味を理解し、それが「やりがい」につながっていくはずです。その態度を日々持ち続け実践していくことで、きっとお客様から感謝の言葉やお褒めをいただくことになるでしょう。
「褒められるって、こんなに気持ちいいこと」
そう感じた時に「成長実感」を味わうことでしょう。おのずとそれが「プライド」となり、「ぶれない心の力」になります。そしてそういう「お役立ちの心」で接客するスタッフがいるお店は、仮にスタッフやお店にとって面倒臭く、時には損と感じることでも、お客様の喜びにつながることは、積極的に、そして温かく手を差し伸べることでしょう。その思いやりこそが、お客様から高い評判を生み、地域に無くてはならない、愛される「ブランド」として認められるのです。
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それは、実は実は・・・。誰でもマネできるのに、ほとんどの人がやっていないことです。
志賀内も、もっとともっと、心のドメインを広げたいです。