あの震災から、9年が経ちました。本日の朝日新聞デジタルに、こんな記事が掲載させていたました。
「あの日 キャラメルをくれたのは」
という見出しです。
避難所に現れた消防士さんが、ポケットから森永の黄色いパッケージのキャラメルを一粒、息子さんに渡し、
「お母さんを助けて、がんばりや」
と言い、息子の頭にそっとふれ、立ち去ったというのです。
シングルマザーのお母さんは、これからのことを考えると不安でたまりませんでした。でも、その一粒を今も忘れることができないというのです。その後、その消防士さんを探しましたが、どこのどなたかわからず。
そして、9年が経ち、あることがきっかけで、その消防士さんと電話で話すことができたというのです。ほんの少しのことで、キャラメル一粒で、人は大きな「力」をもらえるんですね。
以前、中日新聞に掲載した「ほろほろ通信」から、こんなお話を転載させていただきます。いつも、人にやさしく。どうしたら、人の力になれるのだろうか。それは、きっと、小さな小さな、すぐにできる、誰にでもできることなのだと思います。例えば、こんな簡単なことで・・・。
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「手渡された四葉のクローバー」
海部郡甚目寺町にお住まいの林春代さん(61)が、ご主人と祖父江緑地へ散歩に出掛けた時のこと。ご主人が続けて歩いている間、林さんは川岸で少し休憩をしていた。川のはるか向こうの伊吹山をぼおっと眺めていたら、ふと次女の娘さんのことが思い出された。一人暮らしをしているので、きちんと食事をしているのか、事故に遭ったりだまされたりしていないか。考え始めると、次々に心配が膨らんできた。
とはいっても、別に特別のトラブルがあったと聞いているわけではない。昔から自立を促していたし、本人も「一緒に住んでいると親に甘えてしまうから」と学校を卒業すると一人暮らしを始めた。そして無事に何もなく十年が経った。それでも、ふと心配が募ることがある。何歳になっても子どもは子ども。それが親心というものだろう。
その時だ。林さんの前を通り過ぎた四十歳くらいの女性が、くるっとUターンして戻ってきた。そして、手にいっぱいの摘み草の中から探して、一本のクローバーを差し出した。よく見ると、四葉のクローバーだった。突然のことで黙って受け取ると、一言も言葉を交わさぬままその女性は去って行ってしまった。
その瞬間、せき切ったように涙があふれてきた。よほど悲しそうな顔に見えたのか。四葉のクローバーゆえに「きっといいことありますよ」と励ましたかったのだろう。
そこへご主人が戻って来て「どうしたんだ」と心配そうに聞いてくれたが、言葉が詰まって説明ができなかった。他人のことを気にもかけないご時世に、胸がいっぱいになった。
その四つ葉のクローバーを封筒に入れてお嬢さんに送った。「遠くで見守っているよ」と願いを込めて。今もお嬢さんは、そのクローバーのいきさつを知らないという。
(中日新聞掲載2007年12月9日)