ちょっといい話『「言の葉大賞」入選作から「言葉が伝えるもの」齋藤 知子さん』

一般社団法人「言の葉協会」では、全国の小・中学校。高等学校から毎年のテーマに合わせた大切な人への思いや強く感じた気持ちを自分の言葉で綴る作品を募集し、その優秀作品を「言の葉大賞」として顕彰しています。

「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動事務局が主催している「たった一言で」コンテストと、大いに趣旨が重なります。今日は、第8回言の葉大賞の入選作品から、紹介させていただきます。

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「言葉が伝えるもの」齋藤 知子さん

向こうから年配のオバチャンが近づいてくる。こっちを見ている。何か言いたげだ。道を訊きたいのだろう。やっぱり。目を合わせたまま真っ直ぐ近寄ってきた。
「すまんけど、背中、掻いてくれへんか。」
「えっ、」一瞬我が耳を疑う。
「さっきから痒うてしゃあないねん。」
既に半身になって、こっちに背中を向けている。頭の中は混乱したまま、薄いブラウスの上からひとしきり背中を掻いてあげると、
「おおきに、すっとしたわ。これからライトアップ見に行くねん。ほな、さいなら。」
オバチャンはニコッと笑って去っていった。

これは実話である。夫の転勤に付いて、大阪にやってきて2年、東京で生まれ育った私には、いまだに戸惑うことばかりだ。大阪の人は用があろうとなかろうと、やたら話しかけてくる。スーパーで魚の切り身を見ていると
「これどうやって料理すんねん?煮たらええんか?」
私は店のひとではない。
「大阪のひと、どう?」知り合いに訊かれるたびに、私は少々の皮肉を込めて答えていた。
「すごくフレンドリーだよ。」
正直、鬱陶しいと思っていた大阪人のコミュニケーションだったが、最近は私の中で少し変わってきた。住んでいる集合住宅のエレベーターに乗り合わせた佳人は、こちらが初対面であろうと、老若男女、必ず一言ある。
「こんにちは」「おおきに」「さいなら」

以前は、「エレベーターの中での無言に耐えられないのだろう。」くらいに思っていたが、だんだんそれに馴染み、心地よく感じている自分がいた。「これが普通なのかも」と思い始めた。「慣れた」のではない。

小さい頃の自分、昭和の時代を思い出してきたような気もする。言葉とは、なぜ何のために生まれたのだろう。今は時々、声に出して真似てみる。アクセントは違うのだろうが。「さいなら。」

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(編集長・志賀内)
月刊紙「プチ紳士からの手紙」でも、木下晴弘さんのシリーズエッセイ「感動が人を動かす」で、たびだび「大阪のおばちゃん」が登場します。どれも、ちょっと「おせっかい」な行動で、救われたり、癒されたりするお話です。

このお話は、実にいいですねぇ。大阪のおばちゃんは、別に何かしてくれたわけではありません。それどころか、なんと「背中を掻いてくれ」というのです。でも、その言葉に、心が癒される。言葉って、ホント不思議です。

実は、志賀内も、最近、心掛けていることがあります。人に何かしてもらったら、「ありがとう」とは言わない。
「おおきに」と言う。
それも、できるだけ、関西のイントネーションを真似して。たった、それだけで、相手が笑顔になってくれます。言葉って、すごい!

「言の葉大賞」について、詳しくはこちらからご覧ください。

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