ちょっといい話『全国障害者野球大会で出会ったピッチャー』志賀内泰弘

滋賀県で高校教諭をしている北村遥明さんは、毎月ゲスト講師を招いての勉強会「虹天塾近江」を主催し、その講演録などを掲載したニュースレターを発行しています。

今日は、その北村の「ちょっといい話」を紹介させていただきます。

    *    *    *    *

「全国障害者野球大会で出会ったピッチャー」北村遥明

私の友人に身体に障害を持っておられるHさんがいます。Hさんは身体障害者野球のチーム、「ビクトリー」に入って野球をしておられます。

私はそのご縁で、毎年兵庫県の但馬で行なわれている全国障害者野球大会の観戦に行くことにしています。

片方の腕が肩からない方、手の部分がない方、義足の方、脳性小児麻痺の方など、その障害の種類や重さはそれぞれですが、みんな野球が大好き。そんな選手の方々が試合に挑み、そして野球を心から楽しむ姿にスポーツの原点を思い出させてもらえます。

初めて観戦したのは八年ほど前です。まず感動したのがそれぞれのチームの一体感でした。選手たちは仲間の選手のそれぞれの障害についてよくわかっているので、「できない仲間がいれば、できる仲間がカバーする」という意識がとても強いように思いました。

どういうことかと言うと、例えば義足の選手は速く走ることができないので、守備についていてエラーをしてもすぐに捕りに行くことができません。

そんな時は、腕に障害はあるけれども足はとても速い、という選手が全力で駆け寄ってきてそのミスをカバーしようとしていました。 このように味方がミスしたことを想定してそれを補おうとする意識がプロ野球選手以上に凄いことに気づきました。

「今できる最高のことをしようとしているんだ」と私は思いました。

チームの一体感ということで言えば、選手だけでなくスタンドからの応援も大変心に残りました。

話を伺ってみると、観客のほとんどが選手の家族だということでした。中には小さい子ども連れの女性もおられました。子どもたちは障害のあるお父さんの野球選手としての姿を目に焼き付けるように見ていました。

さて、いよいよビクトリーの試合が始まりました。ビクトリーの投手はMさんという若い選手。足に障害があり、つま先だけでフラフラした感じでしか歩けていませんでした。

私は高校時代、野球のピッチャーをしていた経験があるので、「いい球を投げるには下半身をどっしりさせないとだめなのにどうやって投げるんだろう」と思って見ていました。けれども、驚くことに素晴らしい速球を投げ相手打線をどんどん抑えていくのです。私は目が点になりました。

その試合の後、私はMさんのことが強烈に印象に残ったので、ビクトリーの選手の方に行きMさんにインタビューさせてもらったのです。何と彼は高校三年生でした。身長170センチくらいでしょうか。彼はこう言いました。

「高校でも野球部に入っているのですが、足がこのような状態ですので、学生コーチとして、打撃練習の手伝いやチームのためにできることなどをしています。昨年までは高校だけでやっていましたが、このチームの存在を知り週末はこちらのチームで野球をするようになりました」

それで私は質問を続けました。

「ところで、Mさんの場合は足の障害がありますのでどっしりとした投球フォームで投げることができないですよね。でもあんなにすごい球を投げておられた。もう常識を覆されましたよ。どうやって投げているのですか」

「僕は足がしっかり使えないので、そこにこだわっても何も始まりません。ですから自分の場合、使える上半身を鍛え、背筋力を向上させたり、手首の力を鍛えたりしています。ウェートトレーニングもやりますし、手首の強化トレーニングは毎日、500回以上やっています」

このように答えてくれたMさん。その表情の明るさがまぶしく、本当に爽やかでした。

自分に与えられた条件の中で「ない」ものにとらわれず、「ある」ものに集中し、それ伸ばしていく。しかもMさんは遊びとして野球を楽しむというより野球というスポーツを高いレベルで楽しもうとされていました。

話しているだけでどんどん私の中に彼の明るいエネルギーが注入されていくように感じました。

〝今与えられた条件の中で工夫し、楽しむ〟このことを1人の高校生から教えてもらいました。

最新情報をチェックしよう!
>プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動とは?

プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動とは?

ゆっくりでいい。一歩ずつでいい。
自分のできる範囲でいいから、
周りのことを思いやる世の中を作ろう

CTR IMG