ちょっといい話『忙しいときは、けっして慌てない』志賀内泰弘

拙著「京都祇園もも吉庵のあまから帖」シリーズは、タイトルの通り京都が舞台です。

でも、私は100%名古屋人。いくら京都が好きだからといっても、京都の風俗や慣習、京言葉を書くのはたいへんです。そのため、できる限り京都を訪ねてブラブラ歩き、京都の友達とオシャベリするように努めています。

また、「京都」に関する書物も、片っ端から読み漁ります。そんな中、笠井一子著「配膳さんという仕事」(平凡社)に出逢いました。

「配膳さん」って何だろう?

読んで字の如し。料理の配膳をする人のことだとは推測がつきます。ところが、ただ料理を並べるだけではない。実に、奥深い仕事だということがわかりました。

日本でも京都にだけ存在する仕事。それが「配膳さん」です。

茶事や宴会、儀式など、さまざまな行事のすべてを、「裏方」として取り仕切ります。紋付き袴姿。料理の器を、料理長と相談して決めます。料理が出来上がるのに何分かかるかを把握し、最適の時間にお客様のところへ運びます。

仲居さんの仕事は、厨房からお座敷の前まで。そこから、お座敷の中へ運ぶのは配膳さんの仕事になります。

でも、お酌はしません。それは舞妓さんや芸妓さんの役割です。ときには下足番の仕事もします。

どんなに大勢のお客様がいらっしゃっても、帰り際には名前を尋ねずに履物をお出しするのが務めだそうです。

また、表千家、裏千家という茶道の家元の初釜の茶会が、東京で行われる際、家元から茶釜や和菓子を預かり、新幹線で東京まで運ぶこともするといいます。何には重文級の茶道具もあるでしょう。「もしも」のことがあったら大変。責任重大です。

主人の指示に従い、床の間の飾り物の支度もしたりします。掛け軸やお花にも通じていなくてはなりません。

一日に、何百人もの来客がある大きな茶会では、バックヤードはてんてこ舞い。配膳さんは、自分が引き連れて行ったお手伝いの人間を差配して、的確に会の進行をします。そんな配膳さんがいるので、主催者である亭主はお客様にゆっくりご挨拶ができるといいます。

私は今まで、たくさんの会の幹事をしたり、自分で会を主催してきました。最初に仕切ったのは、まだサラリーマン時代のことでした。組合の創立何十周年かの記念式典で、ホテルの大広間を借りての200名ほどの会でした。今でも、あたふたして、てんやわんやだったことが忘れられません。

ビールの本数が足りない。
遠方からの来賓のホテルの手配ができていなかった。
突然、マイクを撮って喋り出す人がいる。
支払の際に、栓を抜いていない飲み物の分の金額でもめた。

わずか2時間の間に、トラブルが続出。ずっと会場を、あちこちと走り回っていました。

その本の中に、配膳さんのこんな言葉が出てきます。

「忙しいときぼくは、決してあわてない。
ぼくがあわてたら、みんなあわててしまうんです。
逆にジッと気もちを落ち着けるんです。
すると作業の流れも自然にスムーズになります」

そうなんですよね。
忙しいと、ついつい急いでしまう。
それがまたミスを招き、次から次へと段取りが狂ってゆく。

これって、会の運営だけでなく、仕事全般にも当てはまる真理だと思うのです。
いや、ひょっとすると、「人生」においても同じです。

自分や家族の病気。
退職、転職。
望まぬ出来事が起こるのが人生です。
どうしても、あたふたしてしまう。
「決してあわてない」
「気もちを落ち着ける」
配膳さんの言葉は、人生訓でもあります。

最新情報をチェックしよう!
>プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動とは?

プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動とは?

ゆっくりでいい。一歩ずつでいい。
自分のできる範囲でいいから、
周りのことを思いやる世の中を作ろう

CTR IMG