ほろほろ通信『旅館従業員の粋な計らい』志賀内泰弘<中日新聞掲載2012年12月2日>

名古屋市西区の森茂伸さん(60)は目が不自由で、通勤はもとより外出するときには白いつえが手放せない。

しかし、休日には精力的にイベントや旅行に出掛ける。中でも夫婦で温泉へ行くのが一番の楽しみという。

その森さんの知り合いで、弱視の女性Aさんの話。

Aさんも温泉が好きで、全盲の女性の友人と温泉に出掛けた。宿に着くと早速お風呂へ。誰も入っていなかったので、二人で湯船に漬かって話が弾んだ。

しばらくして、宿の従業員が入ってきた。「ここは男風呂ですよ」と言われてびっくり。二人とも目が不自由なので、入り口を間違ってしまったのだ。

聞けば、後から男性客が脱衣室に入ってきたところ、浴室から女性の声が聞こえてきた。男風呂であることは間違いなく、そのまま入っても問題はないかもしれないが、この男性は引き返してフロントに知らせてくれた。

実は以前、森さん自身も危うく女風呂に入りそうになったことがあり、人から注意されて冷や汗をかいた。障がい者のために、ずいぶんバリアフリーの建物が増えたが、浴場の入口に男女の区別を知らせる点字表示がなされたホテルは皆無に等しいという。

さて、二人の女性が慌てて上がろうとすると、従業員にこう言われた。

「このままゆっくり入っていてください。準備中という札を掲げておきますから」と。

先程の男性客も事情を知り、二人が上がるまで風呂に入るのを待っていてくれた。申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、好意に甘えさせてもらった。粋なはからいに、心まで温まったという。

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