6月のある日、名古屋市守山区の下垣内みち子さん(47)がリサイクルステーションへ古紙を運んだときのこと。自転車の前後の買い物かごいっぱいに、子どもの古い教科書や雑誌を詰め込んだ。重くて重くて、ふらふらしながら走った。
10分ほどでステーションがあるスーパーの駐車場の入り口まで来た。そこからは長い緩やかな上りのスロープになっている。もうひと頑張りと必死で立ちこぎをして上る。途中、前を50歳くらいの車いすの男性が行くのが見えた。「押してあげたい」と心の中では思いつつも「今降りたらふらついて自転車を倒してしまうかもしれない」と、そのまま一気に上り切った。
古紙回収業者のトラックに自転車を横づけし、荷台の上の人に一束ずつ手渡していく。終わりがけに回収業者の人が下垣内さんの後方に声をかけた。「助けてるの?ご苦労さん」と。それに気付いて振り向く。先ほどスロープで追い越した車いすの男性が、下垣内さんの自転車が倒れないようにと支えてくれていたのだった。
照れ隠しなのか「アルバイトしとるんだ」と男性。作業に夢中で気が付かなかった下垣内さん。「ありがとう」と言うと、男性は大きく手を振ってスーパーの中へ消えて行った。
下垣内さんは言う。「自転車を止めて介助してあげられなかった自分が恥ずかしくなりました。きっと両腕がずいぶん疲れたろうと思います。それなのに他人の手助けをするなんてすごいです。自分だったらできるなかなあと、考えさせられました」