ほろほろ通信『靴はみるみる輝きだして』志賀内泰弘<中日新聞掲載2012年9月2日>

岡崎市の小学校教諭・柵木(ませぎ)哲朗さん(57)には、10数年も履いてきた靴がある。それが旅先で雨に降られた際に、水が染みて靴下までびしょぬれになってしまった。たまたま靴屋さんの店先にお値打ちな靴を見つけ、購入することにした。レジで、履いていた古い靴を引き取ってもらえないかと尋ねた。

40代の男性店員は手に取るなり「これは元がよいものだから、ちょっと上からかけてみましょうか」と言い、捨てようとした靴に真っ黒なクリームを塗って磨き始めた。
「この手の靴は、長年履いていると履きやすくなるんですよ」
「靴底を取り換えればまだまだ履けますよ」
などと話しながら。

靴墨で汚れた手で何度もチューブを絞り出して磨く。すると靴はみるみる輝き始めた。無料で磨いてもらっているのは、昔、一万円以上で買ったもの。今回買ったのは千円程度。あまりにも熱心に磨いてくれる姿を見ていたら、申し訳ない気分になった。

何かお礼ができないだろうかと考えていると「革が伸びて大きくなってしまったら、中敷を替えれば大丈夫ですよ」と言われたので「ここで中敷は買えますか」と尋ねた。しかし「今日はまだいいですよ」とあっさりかわされてしまった。

柵木さんは言う。
「普段から物を大切にしているつもりです。でも、まだ履ける靴を捨てようとした自分が恥ずかしくなりました。改めて物を大切にする心を学びました」
輝きを取り戻した古い靴は、新しい靴の箱に入れ替えてげた箱にしまった。何かもったいなくて、すぐには履けない気がして。

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