ほろほろ通信『67年前の忘れられない出来事』志賀内泰弘<中日新聞掲載2012年8月5日>

名古屋市名東区の横井和子さん(79)は、戦時中犬山へ疎開し、お寺で集団生活を送っていた。一番辛かったのは、シラミだったという。友達同士で、すきぐしを使って頭髪中のシラミを取る。下に敷いた新聞紙にボロボロと落ちてくる。夜はかゆくて眠れない。たまらず起きて指で潰すと血がにじむ。毛糸のパンツの縫い目にびっしりとシラミの卵が産み付けられていた。

もう一つ、嫌なことが。便所が本堂から離れた所にあった。用を足すにはお墓の中を通り抜けて行かなくてはならない。子ども心には怖くてならなかったという。

5年生の冬の日のこと。友達3人と町を歩いていたら、一人の子が転んでしまった。前日の雪が解けかけていてどろんこになってしまった。当時はどの家の前にもあった防火用水で、表面に張っていた氷を割り手を洗った。

その時だった。長屋の一軒の家から女の人が出てきた。「何やってるの?」。てっきり叱られるのだと思い縮こまって事情を話すと「中に入りなさい」と家の中へ招いてくれた。促されてこたつに入る。

するとお茶とお菓子も出してくれた。それは自家製の手作りのかき餅だった。親元を離れて暮らす、粗末な服を着た子どもに情けをかけてくれたのだろう。

「先日、あるアナウンサーのお話を聞く機会がありました。昨日、一昨日食べたものを尋ねられても答えられませんでした。でも遠い昔のことはなぜかよく覚えている。それは何回も思い出すからですと教えてもらいました」と横井さん。

雪が降るたびに思い出す67年前の出来事だという。

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