ほろほろ通信『お尻を洗ってね』志賀内泰弘

名古屋市緑区の小沢きよのさん(65)は、週に一度近くにあるスーパー銭湯に出掛けるのが楽しみだという。通っているうちに顔見知りになる。だんだんと仲間が増え、今では12、3人の人たちと湯船の中での会話に花が咲く。料理の得意な人がいて、季節ごとの食材の使い方を教えてくれる。ゴーヤーチャンプルを作る際、ゴーヤーの苦みのとり方もここで学んだ。

さて、この銭湯では時折、館内放送が流れる。「化粧を落としてから入浴してください」「手ぬぐいは湯船に入れないでください」、そして「入る前には掛け湯をしてください」と。ところが、そのままじゃぶんと入ろうとする人がいるという。

そんな時、一番の常連さんが注意をする。「お尻をちょこちょこっと洗ってから入ってね」と。けっして嫌味な言い方ではない。「ちょこちょこっ」というところがみそ。ユーモアがあっていい。しかるわけでもなく、ほんわかとにこやかに。やはり若い人に多いそうだが、みんな素直に聞いてくれる。単にお風呂の入り方を知らないというだけのことらしい。

それがきっかけとなって、会話の仲間に入る。裸の付き合い。老いも若きも垣根がない。小沢さんも子どもが走っていたりすると「危ないよ」と声を掛けることがある。

「小さなことですが、知らない同士でも気付いたことを注意し合い、気持ちよく生活できる世の中にしたいものですね」と小沢さん。近年薄らいでいる日本の情景がここにあった。

<中日新聞掲載2009年10月11日>

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