ほろほろ通信『コーンバターのお婆ちゃん』志賀内泰弘

7、8年前の事。中根康弘さん(40)が営む名古屋市西区のレストランに、80歳くらいのお婆ちゃんが来店された。モーニングセットを注文。コーヒーの他に日替わりで肉と卵料理が付く。気に入ってくださったらしく続けて来られるようになった。

ある日「マスター、わしゃコーンバターが食べたい。作ってくれんか」と言われた。その日のモーニングセットの料理とは違うし、コーンバターも単品メニューにはない。でも「いいですよ」と応じ、卵料理と差し替えてお出しした。

すると翌日から毎日「コーンバターがええ」とおっしゃる。従業員の間でも有名になり、顔を見るだけでコーンバターを作るようになった。ところが、ある日を境にぱったりお婆ちゃんが来なくなった。みんなで「コーンバターのお婆ちゃんはどうしたのだろう」と心配した。

それから3カ月ほどがたったある日、久しぶりにお婆ちゃんが現れた。酸素吸入器を付け、娘さんに肩を支えられて。ずいぶん体が弱っている様子。どう声を掛けたらいいのか戸惑う中根さんに「コーンバターが最後に食べたかったんじゃあ」とおっしゃった。食事の後「早く元気になって」と声を掛けると「わしゃ、いつお迎えが来てもええ」と言われ言葉が詰まった。

その三日後、娘さんが来店され知らされた。
「昨日亡くなったんよ。いろいろ面倒みてくれてありがとうね、マスター」
中根さんは言う。
「心と心の触れ合いが仕事や人生の原動力になっていることをお婆ちゃんから教えてもらいました。これからもお客様に感謝して料理を作りたいと思います」

<中日新聞掲載2012年5月27日>

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