平成22年3月28日付「ほろほろ通信」で、郵便配達員さんの「ちょっといい話」を取り上げて以来、「私も」と同様の投稿が続いている。今日は、豊橋市の井上千代さん(41)の話。
昨年の夏ごろのことだ。30歳くらいの郵便配達の男性が井上さんの家を訪ねてきた。
「名字と住所を見るとお宅で間違いないと思うのですが、この名前の方はこちらにいらっしゃいませんか」という。手には茶色の大封筒を持っていた。「いいえ」と答えると、封筒に印刷されている差出人の企業名を見せて「この会社名にも心当たりはありませんか」と聞かれた。
そこから書類が送られてくるような覚えはない。再び「いいえ」と答えると、少しがっかりした表情で「それでは差出人に送り返すしかありませんね」言い帰っていかれた。
翌日、また昨日の配達の人が訪ねてきた。「何度もすみません。ご親類にもこの名前の方はいらっしゃいませんか」。さらに「どうも就職に関する書類にように思われるのです。早くご本人に渡して差し上げたいと思って」と言う。
井上さんの地区には、たしかに同姓の家が何軒かある。しかし、その名前に記憶がなかった。再び配達員さんは、残念そうに帰って行った。井上さんも念のために父親に聞いてみたが、心当たりはないとのこと。その後、当人に届いたかどうかはわからない。
でも「人生を左右するような書類かも」とあきらめずに熱心に探す姿を見て心が温かくなった。「我が身を振り返り、あて名はきちんと書こうとあらためて思いました」と井上さんはおっしゃった。
<中日新聞掲載2010年05月09日>