毎週金曜日、田原市の青山琴音さん(16)は学校から帰るのが楽しみで仕方がなかった。
いつもよりスピードを上げて自転車を走らせる。家の前に車が止まっているのを見ると「あ、今日も来てくれた」とうれしくなり「ただいま!」とドアを開ける。
おじいちゃんとおばあちゃんが「おかえり」と迎えてくれる。両親がともに働いていて留守のため、週に一度訪ねて来てくれるのだった。おばあちゃんが作ってくれた熱々のうどんを3人で一緒に食べる。
昨年の2月のことだ。お母さんがおじいちゃんと話をしているのが聞こえてきた。「年貢の納め時だなあ」。何のことを言っているんだろうと思った。数日後、お母さんに呼ばれ、おじいちゃんが病気で入院することを知らされた。
琴音さんのおじいちゃんは書家で大勢の弟子がいる。一時帰宅した時にお見舞いに行くと、表彰状を書いていた。とても病気とは思えないほど生き生きとした筆遣いだった。
「また琴ちゃんの家に行くでね、絶対元気になるよ」と笑ってくれた。しかし、おじいちゃんは帰らぬ人となってしまった。
それから1年が経ち、琴音さんは高校1年生になった。毎週金曜日、家に向かって自転車をこいでいると泣きだしそうになる。自宅にもおじいちゃんの書の作品が掛かっている。それを見る度に元気だったころのことを思い出す。
琴音さんは「生きているということは当たり前のことじゃなくて、それだけでものすごく幸せなんだと気付きました。そのことを忘れずに勉強に部活に頑張っていることをおじいちゃんに伝えたいです」と話す。
<中日新聞掲載2014年12月7日>