多湖史子さん(60)は、名古屋市北区の大杉小学校に校長として赴任した際に驚いた。子ども会への加入率がほぼ100%なのだ。
昨今、名古屋市内のどの学区でも地域行事に参加しない家庭が増えている。そのため、子ども会そのものが消滅したところもある。
ところが、大杉学区は戦火を免れた古い街並みが残され、祖父母と同居する家族が多い。そこに昔ながらの人付き合いが生きている。
分団登校時にはボランティアのおじいさん、おばあさんが付き添い面倒を見る。
靴のかかとを踏んでいる子がいると「ちゃんとはきなさい」と注意する。
忘れ物をした子がいると、一緒に家まで取りに行ってやる。
集合時間に姿が見えないと、学校へ連絡が入る。
「〇〇君が来てないけど、お母さんから連絡がありましたか」
下校時に大通りの交差点を斜め横断する子どもを見かけると大声で叱る。
小学校の体育館で成人式が行われたときのこと。
開会式が始まる直前なのに騒がしい。久しぶりに会う友達と話に夢中になっているのだ。そこへ、子ども会の会長さんの声がマイクで鳴り響いた。
「前の席に移動しなさい。さっさっと動かないと名前で呼ぶよ!」
全員がすっと腰を上げて、空いている前の方へと移動して静かになる。新成人の誰もが、幼いころからその会長さんにお世話になってきたことを覚えているからだ(名前まで知られていては、かなわない)。
「盆踊りには大人も子どもも一緒に参加します。子どもたちは役割を与えられて運営にも携わります。まさしく、地域のみなさんに育てていただいています」
と多湖さんは話す。
<中日新聞掲載2014年11月23日>