渡部隆一さん(47)は名古屋市昭和区の児童養護施設「名広愛児園」で施設長をしている。
夏休みに大須スケートリンクから「子どもたちをスケート教室に招待したい」との申し出があった。ほとんどの子どもは初体験なので喜んで受けることにした。
当日、57人の園児たちがスケート靴を履いた。中には3歳の子もいる。しかし、コーチに指導してもらい、こわごわながらも、あっと言う間に滑れるようになった。誰かが転ぶと歓声が上がる。みんなの笑顔がリンクに広がった。
渡部さんは「なぜ招待してもらえたのか」と疑問に思っていた。その日、鹿児島と東京からやってきた「スマイルプロジェクト」の二人の女性と面談し、経緯を知ることになった。
ソチ五輪で羽生結弦選手や浅田真央選手の活躍をテレビで見ていた全国のフィギュアスケートのファンが、インターネット上で「選手たちに感謝の気持ちを形にして届けたい」と寄付金を募った。
すると1055人から600万円超の金額が集まり、メダルなどを制作し選手10人に贈呈したという。渡部さんはネットの力に驚いた。「余剰金はスケート関係先に寄付します」と断っていたので、全国4カ所のリンクに寄付をした。
すると、そのうちの一つの大須スケートリンクから「スケートを愛する人たちの思いを生かしたい」と、児童養護施設の子どもたちを招待するという逆提案があったのだ。
「いろいろな体験をさせたいのですが、すべてはかないません。子どもたちに可能性をプレゼントしてくださり、一人一人にありがとうと言いたいです」と渡部さんは話す。
<中日新聞掲載2014年10月26日>