それは去年の夏のことだった。刈谷市の高山善直さん(49)が犬の散歩に出掛けたとき、自宅前のU字溝をのぞくと、流水の底に白い玉石がいくつも落ちていた。それは、玄関口に造られた小庭の石だった。
他家の犬が迷い込んで来て落としたのか、それとも近くの小学生のいたずらか…。しかし、U字溝を横断するように整然と並んでいる。その数50個ほど。高山さんは、石を拾って元に戻しておいた。
ところが、次の日も朝になると同じように石がU字溝の中に落としてある。また小庭に戻す。
そんなことが何日か続いたある日のことだった。高山さんの奥さんの目撃から、不思議なことが続く訳を知ることができた。
近所の障害者の自立支援施設で働く20歳くらいの男性が、ポチャン、ポチャンと一つずつ石をつまんでは、U字溝に落としていたのだ。その表情はとても楽しそう。彼にとってはどうやら遊びの一つらしい。
たまたま、友人がその施設を経営していたことから「ポチャンの彼」の話をすると「自閉症の彼を、温かく見守ってあげて」と頼まれた。
そこで高山さん夫婦は毎日、根気よくU字溝から石をすくい上げることにした。すると、また翌日も、彼は施設からの帰り道にポチャンと石を落とす。
しかし、稲の刈り取りが済んで田んぼへの引水が止まり、U字溝に水が流れなくなるとともに、彼の遊びも終わったという。
さて、今年の4月。またU字溝に水が流れるようになった翌日から、「ポチャン」が再開された。「また彼の楽しみができてよかったね」と夫婦で話し合っている。
<中日新聞掲載2014年6月22日>