『北区の赤ひげ先生』|ほろほろ通信 志賀内泰弘

「ほろほろ通信」は読者の皆さんの投稿を紹介するコラムだが、今回に限り筆者の私事の話であることをお許しいただきたい。

8年ほど前、母親をがんで亡くした。長く病気を患っていた父親の看病疲れから倒れた時には、すでに手遅れの状態だった。その際、在宅看護で支えてくださったのが水野内科・消化器科クリニック(名古屋市北区)水野直樹院長だった。

余命3、4カ月と宣告された母に「人の余命など分かるはずもなく、口にするものではありません。大丈夫、寿命まで生きましょう」と励ましてくれた。

両親の看病でふらふらの私にも「君の方が心配だ」と気遣われ、看病する側の悩みにも耳を傾けてもらってどれほど救われたことか。

母親が最期を迎えるために入所したホスピスまでご夫婦でお見舞いに来られた。「ここまでしてくださるとは」と感激した。

その水野院長が亡くなられた。64歳だった。医者の不養生といわれるが、原因は働き過ぎではないかと勝手に推測している。このクリニックは休診日がない。日曜も診療している。水野院長も気付いた時には手遅れの状態だったという。

検査入院から戻ると、再び診療を開始。「患者さんが心配」と自分の体のことはさておき、3月末まで診療を続けられた。そして4月21日、天国へと旅立たれた。

病床で患者さん一人一人に、次の病院への紹介状をしたためられた。死に直面しながらも最後の最後まで患者さん思い。まさしく医は仁術。

山本周五郎の「赤ひげ」のような。ご子息がこの春、医学部に入学された。きっと父親の遺志を継がれるに違いないと思っている。

<中日新聞掲載2014年6月15日>

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