『厨房は猛吹雪』|ほろほろ通信 志賀内泰弘

稲沢市の大坪十三子さん(80)が、名古屋市の名鉄ニューグランドホテルでパートで働き始めた10年前の話。

早朝に厨房の清掃をしていたら、ぬれ雑巾が誤って赤いボタンに触れてしまった。その途端にサイレンが鳴り響き、「ブオーン」という大きな音がして大型消火器から白い粉が噴き出してきた。

厨房は猛吹雪のように瞬く間に真っ白に。大坪さんはぼうぜんとしてその場に立ち尽くしたという。

そこへ次々とコックさんたちが出勤してきて、みんな「おー」と声を上げたかと思うと、黙々と鍋やまな板を洗い始めた。怒られると思っていたら支配人さんが一言。

「消火設備が作動することが分かって良かったな」

上司のUさんは、粉で全身真っ白になっていた大坪さんに「シャワーを浴びて来なさい」と声を掛けてくれ、厨房スタッフのNさんは「いいんだよ、年末の大掃除が一カ月早くなったと思えば」とも。誰も愚痴を言う人はなく、その気遣いが心に染みたという。

後日、社長のところへおわびに行った。始末書や弁償のことで頭がいっぱいだった。

ところが「何しに来たの」とにこにこ顔で言われた。

「あのう、先日、派手にやらかしましたので」と言うと、「ああ、あれ。新機種に取り換えようかと時期を検討していたところだよ。ちょうど踏ん切りがついて良かった」と。

「今も社員の皆さんの制服のボタンを繕ったり、仮眠室のシーツを取り換えたりと裏方の仕事をさせていただいています。あの時の恩返しだと思って一生懸命に」と大坪さんは話す。

<中日新聞掲載2014年4月27日>

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