『普段言えないけど、ありがとう』|ほろほろ通信 志賀内泰弘

春日井市の森世昶(としあき)さん(81)は、以前、大手電機メーカーに勤めていた。若いころから正しいと思ったことは、絶対に曲げない性格だった。しかしそれは、会社員としてはあまり適していなかった。

当時は、世界各国へ電気機器を輸出する際に、取扱説明書は日本語で書かれていた。上司に「相手国の言語で作って欲しい」と申し出ると「日本語で十分だ」と却下された。それが原因で言い争いになった。そんなことが日常茶飯事だったが、自分に非がないと思うと絶対に譲らなかった。

27歳のとき、ご縁のあった女性に「私はそんな具合だから、平社員で終わるだろうがいいだろうか」と聞くと、迷わず「いいですよ」と言ってくれたので結婚した。

そのすぐ後、上司から呼ばれて「飼い犬でもワンと鳴けばかわいいだろう」と言われた。それはお中元の要求だった。その話を妻にすると「考えます」と言い、以後、森さんに黙って盆暮れに対応してくれた。

そんな性格を疎まれ、修理などを担当するサービス会社へ異動になった。右も左も分からない中、猛烈に電気の勉強をして日本中を駆け回った。台湾や韓国へも。その間に同期のみんなは出世したが、森さんだけはずっと現場で汗水を流していた。

そして、58歳のとき、「もうそろそろ辞めてもいいかな」と言うと、奥さんは「なんとかなるわ」と許してくれた。退職時、同期では唯一、平社員だった。

森さんから奥さんへ。

「強情なため苦労をかけたと思う。普段は一度も言ったことはないけれど、今までありがとう」

<中日新聞掲載2013年10月20日>

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