5年ほど前に小欄で紹介した話。一宮市の小野木朝代さん(54)の息子さんは、自閉症でじっとしているのが苦手。そのため散髪が思うようにならない。そんな息子さんを近所の永田理容店のおじさんは快く迎えてくれる。
お菓子やお気に入りのビデオまで持ち込んで臨むが、座っていられず何度も途中休憩。限界になると「また明日おいで」と言われ、それに甘えて4、5回通うことになる。その忍耐力には頭が下がるという話だ。
今回は、その後日談。小野木さんの息子さんは23歳になった。今も同じ理容店で2カ月に一度、お世話になっている。今ではおとなしくしていられる時間が長くなり、3回くらいで散髪が終わるようになった。
おじさんと息子さんとの信頼が深まったことの表れだと思っている。小野木さんは何度も尋ねた。「なぜ親切にしてくださるのですか」と。すると「当たり前のことをしているだけ」という返事が返ってくる。
だいたい出来上がったので、小野木さんが「これで十分です」と言うと、「こんなんで外を歩かれて、こっちの腕が悪いと思われちゃ困る」と話され、納得するまで時間をかけて刈ってくれる。
何度通っても、最後に仕上がった時でないと料金を受け取ってくれない。もちろん1回分。いわゆる職人かたぎなのだろう。
「子供の成長を見るのがうれしいと言ってくださいます。息子もほんの少しですが成長したようです。ただ少し残念なのは、私自身が永田さんご夫婦と世間話をする時間が短くなってしまったことです」
と小野木さんは話す。
<中日新聞掲載2013年9月22日>