『オリエンタル中村にいる』|ほろほろ通信 志賀内泰弘

40年以上も前の話。名古屋市名東区の横井和子さん(79)はご主人を早くに亡くした。その時、長女が9歳、長男は7歳だった。

亡くなる前の2年間、ご主人は大阪に単身赴任しており、週末だけ帰宅。日曜の夕方、新幹線を見送りに行くと「あ〜あ、行っちゃった」と長男はぽつりとつぶやいた。二人の子どもをふびんに思い、和子さんの父親がよく遊びに来てくれていた。

ご主人が亡くなり、何カ月かたったある日の夕方のこと。長男の姿が見えないので心配していると電話が鳴った。

「僕、今、オリエンタル中村にいるんだけど、これから帰る」

驚いた。一人で地下鉄に乗ったことなどないはずなのに、本山から栄まで一人で出掛けたらしい。

「気を付けて」と言い電話を切った。父親がいつも連れて行ってくれたのがオリエンタル中村(現・三越)だった。

帰ってくるなり、こんな話を始めた。

「僕ね、おじいちゃんに何かプレゼントをしようと思ってデパートに行ったんだけど、何がいいか分からなかったの。
それでデパートの店員さんに聞いたら『おじいちゃんは何か好きなことがあるの?』と聞かれたので『お花が好きで作っているよ』って言うと『じゃあスコップがいいよ』と言われたので買ってきた」

父親の代わりに、祖父に父の日のプレゼントをしようと考えたのだった。

「葬儀の後、しばらくしてデパートへ買い物に出掛けた時、『このおもちゃね、お父さんが今度買ってくれるって…』と言われた時には胸が締め付けられるような思いがしました。父の日が来るたびに思い出します」

と横井さんは話す。

<中日新聞掲載2013年6月9日>

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