『胸の傷痕』|ほろほろ通信 志賀内泰弘

瀬戸市の中学教諭で、現在は市教育委員会に勤務している渡辺康雄さん(49)は30歳のとき、人間ドッグを受診した際に「胸に腫瘍がある」と告げられた。

あまりにも唐突で信じられなかった。

「そんな重要なことは、まず親族に話をするはず。うそに違いない」

と思った。ところが医師は「○○病院に手術の上手なお医者さんがいるので、紹介状を書きます」と真剣な表情でペンを走らせた。

数日後、紹介先の病院へ行くと、医師から「縦隔腫瘍」だと言われ、すぐに入院。2週間後には手術を受けた。

意識を取り戻した自分の体には何本ものチューブが付いていた。そして、胸には15cmぐらいの手術痕が。傷口を見ながら「これが一生残るんだなあ」と思いため息をついた。

すると同室のAさんに「いいなぁ。うらやましいです」と声を掛けられた。

Aさんは23歳。渡辺さんと同じ病気を患っていた。しかし、発見が遅れたため、あちこちに転移しており、手術ができず抗がん治療を続けていた。

「渡辺さんが治ったら、自分も元気になれるような気がします。だから、渡辺さんにはどうしても元気になってほしいんです」

と言われた。

残念ながらAさんは4ヶ月後に帰らぬ人となった。渡辺さんは言う。

「胸の手術痕はずいぶん目立たなくなりました。人間はいいことも悪いことも忘れてしまいます。
でも、自分の手術痕を見て『うらやましい』と言ったAさんの思いは、学校で子供たちにも伝えていかなければいけないと思っています。そのためにも胸の傷痕はずっと残ってほしいと願っています」

<中日新聞掲載2013年5月26日>

最新情報をチェックしよう!
>プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動とは?

プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動とは?

ゆっくりでいい。一歩ずつでいい。
自分のできる範囲でいいから、
周りのことを思いやる世の中を作ろう

CTR IMG