名古屋市天白区の安江泰樹さん(38)が天白図書館へ出掛けたときの話。
ある本を借りようとして手を伸ばすと、もう1本の腕が差し出された。安江さんは思わず手を引っ込めた。すると、相手も手を引いた。同い年くらいの男性だった。
「あっ、どうぞ」と言うと、相手も「いやいや、よかったらどうぞ」と。
まるでコントのように3度、4度と譲り合いを繰り返した。
それから1カ月ほどたったある日のこと。その男性と再び図書館でばったり会った。相手も安江さんを覚えていてくれた。お互いに上限の6冊を借りてから図書館談義に花を咲かせた。
本を借りると「貸出シート」というレシートをくれる。そこには本のタイトル、返却期限などが印字されている。
借りた本の一つに「次に予約でお待ちの方がいます」と書かれていることに目が留まった。安江さんが何げなく「よし、まずこの本から読もうかなあ」と漏らすと「僕も同じなんですよね」と言われた。
彼いわく
「予約してでも読みたくて、待ちに待って借りているわけです。それは、僕も次の番の人も同じ。この本には読みたいという気持ちがいっぱい詰まっていると思うんです。
だから次の人に早く回したくなる。それだけじゃなくて、僕と同じ本を読みたいと思っている人がいると思うだけでうれしくなるんですよね」
安江さんは「私よりもっと深く考えている人がいて感心しました。返却期限は2週間ですが、早く読んで早く返すことが本に対する愛情だという考え方もあることを、あらためて考える機会になりました」と話す。