ほろほろ通信『夢に見た天童よしみコンサート』志賀内泰弘

名古屋市千種区の河岸ひと美さん(43)の母親は、天童よしみの大ファン。コンサートに行くのが夢だった。念願かないチケットを買うことができ、その日を楽しみにしていた。ところが、コンサートの一カ月前に病気で倒れてしまう。幸い命に別状はなかったが、認知症になり外出もままならなくなった。

涙ながらに「天童よしみに会いたい」と言う。何の趣味もなく、家事や子育てだけに生きてきた人生だった。何とか行かせてやりたいと思った。同行したいがチケットは既に売り切れ。主催者に事情を話すと、幕が開く直前まで付き添うことを認めてもらえた。

始まるぎりぎりまでそばにいると、隣席の年配のご夫婦が声を掛けてくれた。「ここからだとよく見えますね」。不安でいっぱいの娘の心とは反対に、お母さんは満面の笑みだ。後ろ髪を引かれる思いで外へ出た。

終了5分前に会場に入れていただき、最後の曲が終わるのを待った。幕が下りて退場する人たちでざわつく。すぐに迎えに行けなくて困っているところへ、先ほどのご夫婦が河岸さんの姿を見つけてお母さんを連れて来てくださった。

聞けば、公演の途中で奥さまがトイレに連れて行ってくだったという。また、じっとしていられなくなった時に、ご主人が何度も声を掛けて落ち着かせてくださったとのこと。別れ際、ご主人が笑顔で「またね」と河岸さんたちに手を振った。

「10月4日名鉄ホール午後2時の部、前から4列目のご夫妻へ。母は何度もその時のことを話してくれます。今度は私が困っている方に手を差し伸べます。それがいつか回り回ってあなた方様へ届くと信じています。ありがとうございました」

<中日新聞掲載2009年12月27日>

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