たった一言でコンテスト受賞作品★こころにビタミン賞★『あいつを頼む』

富山県高岡市
ペンネーム:睦明の娘

<心に響いた「たった一言」>
「あいつを頼む」

<「たった一言エピソード」>
「今日、彼が挨拶に来るから」そう父に伝えると朝から自分の部屋にこもって出て来なかった。彼が我が家に到着しても、部屋の中から「今、ちょっと手が放せない・・・」と言う。そもそも口下手な父なので、わずかばかりの抵抗をしていることはみえみえだった。

「いい加減に出てきて」と私が戸を開けると、確かに手が放せない状態だった。9回の裏1アウト。父はファミコンでプロ野球ゲームの架橋に入っていたのである。かなりのジャイアンツファンである父なので、いたしかたないと、この試合のゲームセットを待った。

ようやく彼の前に現れた父。しかし、野球は好きか?ジャイアンツは好きか?の話が始まり、野球に興味のない彼にがっかりしていた。あまりにも話を意図的にそらすので、母が間に入り、「結婚するんやろ」と切り出した。父はだんまり。

結局、はっきり父から承諾の言葉のないまま、母が「いいやろ、お父さん。いずれは嫁にださんなんから」といい、ことが進み始めた。

結婚式ではとにかく、落ち着かない父。主役は私なのに、かなりそわそわ。披露宴での様子はひっきりなしにタバコに火をつけている。仕上がってきたどの写真をみてもだ。結婚式も披露宴も無事に終わって、紋付姿の彼と父が着替えをしていた。よりにもよって二人っきりで。

そして父は彼に「あいつを頼む」と一言だけ言ったらしい。彼も初めて父が自分の口で言った言葉に感動し、互いに深々と頭を下げたとか。精一杯で充分な、祝福の言葉であった。あれから、早13年の月日が流れた。今年、父が他界した。父が亡くなった今も、私も主人も忘れられない一言である。

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