たった一言でコンテスト受賞作品★ハッピー賞★『俺はお前を信じる』

千葉県習志野市
ペンネーム:桜木綾乃さん

<心に響いた「たった一言」>
「俺はお前を信じる」

<「たった一言エピソード」>
高校二年生の時でした。学校でパーマをかけることが禁止されていました。と言ってもかける人も少ないし、穏やかな校風の学校でそれほど厳しい取り締まりがあったわけでもありません。全校集会の時にパーマをかけた人は自主的に残りなさいと言われて説教を受けるくらいのものでした。

私はパーマをかけていました。でも特におしゃれ心があったわけでもないし、友だちに合せたわけでもなく、自分では単なる興味本位、軽いノリのつもりでした。

ある日、廊下で先生に呼び止められました。
「桜木、ちょっと」
週に何度か授業を受ける数学の教師で、教え方がうまく明るく気さくな先生として人気がありました。よく複数の生徒に取り巻かれて笑いながら廊下を歩いている姿を見かけました。でも私は、確かに教え方はうまいとは思うものの、調子の良い軽い人だなあと思う程度でそれほど親しみを感じてはいませんでした。だからすれ違いざまに名前を呼ばれたのにはちょっと驚きました。

先生は、人通りの少ない所に私を連れて行き私の目の前に立って、
「お前、パーマかけた?」
と聞きました。何だ、そんなことか。私は半ば笑いながら、
「いいえ、かけてませんよ」
と言いました。そして次にもし「うそだ、かけただろう」と言われたら、言い返す言葉は用意してありました。たいていの教師はそう言うと思っていたから。ところが先生は、真剣な眼差しで私の目をじっと見ました。そして一言、
「よし。俺はお前を信じる」
ゆっくりと言葉を区切りながら言いました。そして、うんと大きく頷くとさっさと行ってしまいました。

ほんの数秒のことでした。よく使われるありふれたセリフです。いつもの小言のように、先生に対する小さな反発心を残してすぐに忘れてしまうはずでした。でもそのとき私は、心の中に無視できないずしっと重く響くものを感じました。気がつくと、私はパーマをかけたことでなく、うそを答えてしまったことを後悔していました。

以後、その時の状況と先生の言葉を、時折思い出すようになりました。振り返ってみると、私はその時まで、無意識にも人を信じることや信じられることを避けてきました。話を聞いてくれずに頭ごなしに押さえつけようとする父の影響が大きかったように思いますが、人との付き合いにもいつも心から打ち解けられない緊張感があることを自分でも分かっていました。

先生の一言は、人に信じられるということの重み、それは同時に温もりでもあり励みでもあると言うことを教えてくれたのでした。そして先生の言葉は、思い出すたびに新しい発見があります。ある時には、自らが人を信じることの大切さ、信じることによって人と付き合いに心地よさを感じられることにも気が付きました。

今では先生のお名前も忘れてしまいましたが、先生の小さくたたまれた一言が、心の中で大きく広がって私を成長させてくれたように思います。

最新情報をチェックしよう!
>プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動とは?

プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動とは?

ゆっくりでいい。一歩ずつでいい。
自分のできる範囲でいいから、
周りのことを思いやる世の中を作ろう。