たった一言でコンテスト受賞作品★ ニコニコ賞★『ママが飛んでしまわないように』

兵庫県神戸市
ペンネーム:山田 一休さん

<心に響いた「たった一言」>
「ママが飛んでしまわないように」

<「たった一言エピソード」>
あの頃のわたしは何もかもに疲れていた。だんなの会社の業績も思わしくなく、専業主婦だったわたしもパートに出る毎日だった。

その日も、朝長女を幼稚園へ送って行き、そのまま仕事へ行かなければならなかった。幼稚園まで長女を後ろに乗せて自転車で急いで10分。そのままノーブレーキで仕事場へ10分。わたしの頭の中は時間・時間・時間でいっぱいだった。

そんな日に限って、長女は朝食の牛乳のコップを倒し、肩から下げるミニタオルが気に入らないと騒いだ。
「いい加減にして!」
わたしはするどい罵声を長女の頭頂部めがけて飛ばした。わたしの声が刃物だったなら、長女の小さく柔らかな頭に、深く突き刺さったことだろう。

わたしはべそをかく長女を乱暴に自転車の後ろに乗せて、無言で走り出した。段差もおかまいなし。ぐいぐいと全ての怒りをペダルに乗せてわたしは足に力を入れ続ける。

力を入れすぎたせいで、わたしの腰はサドルから少し浮いてしまった。
「あ!」
長女がわたしのジーンズのベルトをきゅっとつかんだ。
「なにっ!」
わたしはまだ怒りの中にいた。もう何に対して怒っているのかわからなかったけれど。長女がさらに力をこめて、今度はぎゅうっとつかんだ。そして言った。

「ママが、ママが飛んでしまう。どこかに飛んで行ってしまわないように、押さえてる。大丈夫だよ。ちゃんと押さえてるから」

わたしは静かに自転車を停めた。そして、長女を見た。長女のまあるい顔を見た途端、わたしの中に巣食っていた黒緑色のどくどくとしたいやらしい感情がすうっと消えていくのを感じた。

長女の目がまっすぐにわたしの心を捉える。
ごめん…。
泣きそうになった。

わたしは自分の忙しさ、思い通りにならない憤りにかまけて、長女の心に寄り添っていなかった。近くにいても、気持ちはどこかに飛んでしまっていた。
ごめんね…。
その日は長女の好きな歌を二人で大声で歌いながら幼稚園へ向かった。

子供にはときにはっとするような真実を突きつけられる。わたしはそこで立ち止まり、自分が付けて来た足跡をを振り返る。子供に恥じないようなまっすぐな足跡でありたいと強く願う。

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