たった一言でコンテスト受賞作品★いい言葉で賞★『見ていて見ぬふりは出来ないよ』

北海道旭川市
ペンネーム:三上次郎さん

<心に響いた「たった一言」>
「見ていて見ぬふりは出来ないよ」

<「たった一言エピソード」>
 長男の大学入試が終わって、私たちは札幌のホームで列車を待っていた。その時、色あせた黄土色のリュックサックを背負った初老の男性が松葉杖で近づいてきた。

「函館行きは、このホームですか?」
と尋ねられた。

函館行きは隣りのホームだった。その人は、今上がってきた階段を下り、連絡通路を経てから隣のホームへと階段を上がらなければならなかった。しかも松葉杖をついてとなれば大変である。それを思うと長男も返事が出来なかった。その人が去った後も長男は黙って何か考えているようだった。

「ちょっと待ってください」とその人を大声で呼ぶやその後を追いかけた。

階段を下りるところを捉まえて何やら話し終えたかと思うと離れて立っている私を呼んだ。長男はその人を背負い隣のホームまで送っていくと言うのだ。長男はその人を肩で支え、リュックを私に持たせた。リュックの背当たりは汗で濡れていた。

それから長男は、その人の前に回って背を向け、背負った。私は人がぶつかってこないように長男の前に立って階段を下り始めた。五段ほど降りては休み、を繰り返しながら下りきった。そこから連絡通路を通って上りの階段口に辿り着いた後、また五段ずつを繰り返しながらホームに向かって上がっていった。長男の背中と男の人の胸は汗でびっしょりだった。

その人が函館行きに乗ったところで私たちは自分たちのホームに戻った。私は長男に「大変だったね」と声をかけた。長男は「見ていて見ぬふりは出来ないよ」とさばさばした表情で呟いた。私は、こういう青年に育ってくれた長男が嬉しかった。

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