ほっこり親孝行ものがたり『第5回 散歩に付き合う』志賀内泰弘

「散歩に付き合う」志賀内泰弘

オレは、朝が弱い。独身で一人住まいしていた頃には、目覚まし時計を3つも掛けていた。それでも会社に遅刻したことがある。結婚してからは、妻の優貴に頼りっぱなしだ。
「今日は朝一で会議なんでしょ!」
そう言い、布団をめくって身体を揺り動かす。・・・というより、かなり乱暴にどつく。結婚して8年。そんな優貴のおかげで、なんとか電車に間に合うという生活をしてきた。

そんなオレが、こともあろうに、朝の散歩を始めた。なんと5時40分起床! 自分でも信じられない。これには深~い?理由がある。

田舎のオヤジが、一年前に会社を定年退職した。オフクロは先年、亡くなっている。大好きな庭いじりをして気ままに過ごしていた。ところが、脳梗塞で倒れてしまう。幸い、ご近所さんが気付いて救急車で搬送。10日ばかりの入院だけで、家に戻ることができた。ほんの少しだけ、視力が低下したものの、身体的に後遺症はなかった。

だが、精神的なショックが大きいらしく、家から一歩も出なくなってしまった。そこで、優貴が言いだしたのだ。
「お父さんに、このマンションに来てもらいましょうよ」
なんとデキル嫁だろう。ますます頭が上がらない。その優貴に、さらに勧められた。
「二人で朝の散歩に行きなさい!お父さんの健康のためよ」というのだ。朝は苦手・・・などと抗うことなどできなかった。そして、もう半年もの間、オヤジと二人での散歩は続いている。

散歩の途中、小さな公園で6時半からラジオ体操に参加する。それが終わると、ベンチで一休み。だが、歳のいった父子というのは会話が少ない。不思議なもので、家を出てから帰宅するまで一言もしゃべらないこともある。ところが、つい今朝のことだ。

「桜の蕾が、ふくらんできたな」
「ああ、そうだね。花見にはまだ早いかな」
「優貴さんにお礼を言っておいてくれ」
「なんだよ」
「膝が痛いって言ったら、サポーターを買ってきてくれた。どうやら調子がいい」
「自分で言えよ」
「・・・」
「それから・・・」
「なんだよ」
「毎朝、散歩に付き合ってくれてありがとうな」
オレは、胸が熱くなった。照れ隠しに答える。
「オレじゃない、あいつのおかげだよ」

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