ほっこり親孝行ものがたり『第10回 旅先から地方の名物を贈る』志賀内泰弘

アヤカは独身、42歳。一度、結婚したが上手くいかなくて、別れた。
最初の頃は、両親は腫物でも触るように気を遣ってくれた。まるで、初めて上京して下宿をする学生のように「食べてる?」「夜は、ぐっすり眠れるのかい?」「どこか体調が悪かったら、すぐにお医者さんに行くんだよ」と、父と母が代わる代わる電話をしてきた。正直、泣けた。

もっとも、あれから10年以上が経って「離婚」という一大事も風化してしまったのか、「いい人、いないのか?」と口煩い。父は、学習塾を経営しており、地域に顔が広くて信望が深い。そのため、「こっちでお見合い相手探そうか」と言ってくる。

でも、その気持ちが嬉しくて、アヤカは心から感謝している。今は、仕事が楽しくて仕方がない。その仕事も、離婚したおかげで打ち込めると思うと、まんざら悪い人生ではないと思っている。

アヤカは、マーケティングのコンサルティング会社に勤めている。コンサルと言うとカッコよく聞こえるが、アヤカの仕事は主に研修や講演だ。そのため、月のほとんど、スーツケースを持って全国を飛び回っている。夜は主催者から招かれて、ご馳走になることが多い。さらに手土産も。そのため、グルメになってしまった。

「あっ!これ美味しい!!」
と思うと、駅や空港から地方から実家に宅配便で送る。主にはお菓子だが、牛肉のしぐれ煮やマンゴー、イクラなどもある。届くと、必ず、母から電話がかかってくる。

「いつもありがとう。お父さん喜んでるわよ」
そう言ってくれると嬉しい。嬉しいから、また送る。その回数は、年に10回を超えるだろう。

ところが、である。帰省して参列した従妹の結婚式の披露宴でのことだ。父の兄の敬一おじさんが、うちのテーブルに来てこう言った。
「おい、政司、糖尿の具合どうだ?」
「うるさいよ、そんなもん大丈夫だ」
「だって、良子さんが相当数値が高いって心配してたから」

アヤカは話に割って入った。
「なに、お父さん糖尿なの?」
「う、うん・・・ちょっとな。でも、薬とか運動とか始めて良くなって来てるんだ」
わざと内緒にしていたらしく、ドキマギしている。

「じゃあ、何よ。甘いお菓子なんてたくさん送って、わたしバカみたい。なんで、言ってくれなかったのよ。これじゃあ、親不幸じゃないの!」
「す、すまん」
いつもは大声の父が、小さくなった。すると、母が父をかばうように言った。

「アヤカ、迷惑じゃないのよ。お菓子、ものすごく役立っているの」
「え?・・・どういうこと?」
「塾の生徒さんたちのおやつに配っているんだよ。低学年の子たちは、なかなか勉強が続かないからねぇ。お菓子に吊られて通う子も多いのさ」
父がボソリと言った。

「でも、いつも一つだけは食べさせてもらってるよ。少しならお医者さんもいいって言ってくれるし。お前の気持ちだからな」

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