親孝行大賞受賞作品 ★こころぽかぽか賞★ 『家族の絆』

【ペンネーム】オウンゴール
【性別】男性
【年齢】66
【住所】大阪府大阪市

【「親孝行大賞」のタイトル】
「家族の絆」

【「親孝行大賞」の本文】
お盆の季節と春秋の彼岸に、母は墓参りを欠かさなかった。前夜から線香、ロウソク、数珠を揃え、「引越し先の掃除に行く」と言い置き、翌朝早くに母は出かける。しかし、墓前では十五年前に癌で他界した夫に、「もう少し待っててな」と話しかけるそうだ。引越しするには、まだ現世に未練があるのだろう。

夫の胃癌が転移し、余命という言葉を医師から告げられたときも、母は気丈だった。気の毒そうな表情を浮かべる医師に、「そうですか。治らんなら、もうあかんというときまで家で世話しますわ」と言い放ち、てきぱきと退院の準備を始めた。そして当事者の夫には、「胃潰瘍やったらしいわ。癌やないかと思うて心配してたけど」と、明るく言ってのけた。悲壮感の欠片も見せずに、笑顔で夫と向き合ったのだ。

「ワシは癌やろ。両親の癌を見てきたからわかるわ」と、退院後のある日、父は私にそっと言った。そして、「世話を掛けるな。それから、お母ちゃんを頼むわな」と付け加えた。涙があふれた。癌に気づいている父と胃潰瘍で押し通す母。緊張をはらみながらも平穏な二人の日々は数か月続き、父はあまり痛みを訴えることもなく、静かに両親のもとへと旅立った。実に優等生だったと思う。

  決まり文句の「引越し先の掃除に行く」とともに墓参りに出かけた母に異変が生じたのは、今から六年前の夏だ。「しんどいから、墓参りはまた今度にする」と、供花を提げたまま、憮然とした様子で帰宅したのだ。

しかし、財布の中には墓参りに行くための電車の切符がそのまま残されていた。つまり、目的地はわかっていたものの、電車に乗る方法を思い出せなかったのだ。母のその言動が意味するもの。私には、胸の内では否定しながらも、思い当たることがあった。

ここ数か月の母は、どこかしら妙だった。春先にはもうその兆候が現れていたのだ。

花見に連れて行った翌日、「昨日の桜はきれいやった」と私に言った母が、「お前も散る前に見といたらええ」と、平然と付け加えたのだ。連れて行ったのは私なのに……。それだけではない。水道を止め忘れる。風呂の沸かし方を忘れる。二人暮らしの我が家に、二十個もコロッケを買って来る。買い物かごをどこかに置き忘れて来る……。

 「私もいつか癌にかかるんやろか。死ぬときはコロッと逝きたいなあ」と語っていた母に、認知症の病が襲いかかったのだ。神経内科で処方される薬で進行は食い止めているものの、快方に向かうことはもうないらしい。

  「世話を掛けるな。それから、お母ちゃんを頼むわな」と言った生前の父の言葉が、今になって思い出される。闘病の辛さを一言も訴えず、優等生のまま他界した父。愚痴をこぼさず、夫の闘病を気丈に支えた母。そして、そんな両親の晩年を見守る私。家族の絆とは、どうやらこんなものなのかもしれない。

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