ほっこり親孝行ものがたり『第8回 親よりも長生きする』志賀内泰弘

「親よりも長生きする」

田村剛史は、やるせない思いでいっぱいだった。この二年間というもの、気持ちの持っていきどころがなく、苦しみ続けてきた。剛史には、2つ上の兄がいる。いや、・・・正確に言うと「いた」。

兄の靖也は、何をしてもできる人間だった。小、中学校と、児童会・生徒会の会長も務めた。スポーツ万能。習い事もたくさんしていて、書道も上手ければ、ピアノも弾ける。バレンタインディには、持ち帰れないほどのチョコレートをもらった。それに引き替え・・・剛史はすべてにおいて、兄に劣っていた。劣るだけならまだいい。比較されるのが辛かった。小学校の上がるなり、担任の先生に言われた。
「キミが靖也くんの弟か、そうかそうか、キミがねぇ」
だが、その期待を間もなく裏切ると、先生の眼は失望に変わった。

今日は、その靖也の三回忌だ。法要が始まる前に、剛史は、叔父に呼び止められ寺の縁側に並んで座った。
「お父さんとお母さん、最近どうだ?」
「ああ、オヤジは大丈夫だけど、オフクロはあの日以来、ボーとしていることが多くて」
「あの日」とは、兄貴が飲酒運転の車の犠牲になった日のことだ。
「靖ちゃんは、親孝行だったからなぁ」
「うん、そうだね」
「設計も全部自分でやって、リフォームした時は、びっくりしたよ。ずいぶん費用もかかったって聞いてる」
靖也は一級建築士だった。年老いて、足腰に自信が無くなった両親のため、バリアフリーの設計をして実家の改修工事を行ったのだ。
「力になれなくて申し訳ない」
「ううん、不甲斐ないのは俺だ。もう四十になろうとしてるのに、離婚するわ、会社じゃあリストラされるわで飲んだくれの毎日・・・親孝行の一つもしなくちゃって思うんだけど何もできない・・・親孝行どころか、親不孝者だよな」
急に叔父が、真顔になって言う。
「親孝行なんて簡単だ」
「え?」
「いいか!お前は長生きしろ!兄貴の分まで長生きしろ。親より早く死ぬな!!」
剛史は、唇をヘの字にして「うん」と答えた。そして、心の中で誓った。(酒はもう止めよう)振り返ると、遺影の靖也が笑っていた。

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