第15回「話題の映画を一緒に見に行く」志賀内泰弘

付き合い始めて、半年くらいになる。彼女はチェーン店のカフェの正社員だ。そのため、土日に休めることはほとんどない。彼女のオフの日に合わせて、有休をとるのも至難の業。ということで・・・デートはもっぱらウィークディの夜ということになる。できるかぎり仕事を定時で切り上げて、いつもの待ち合わせのカフェ(彼女のライバル店)へ走る。
「ねえねえ、何観る?」
これは、けっこういつもの会話。二人とも、映画が好きなので、どの映画を見るかがもっとも重要な問題となる。
「そうね、ユーちゃん、ホラー苦手だもんね」
「頼む。それだけは勘弁してくれぇ」
幼い頃、従姉に無理やりお化け屋敷に連れて行かれて、おしっこもらして以来、怖いものはダメなのだ。
「じゃあさー、これは?」
「あ、これはダメ!」
「なんだよ、前に観たいって言ってなかったか?」
「う、うん。そうだけど」
なんだか怪しい。カノジョはときどき、自分に都合の悪いことがあると、唇を軽く噛む。「嘘をついてる」というわけではないだろうが「隠しごと」があるのだと睨んでいる。かなり仲良くなってきたというのに、ちょっぴり不安だ。
「なんでだよ?」
「どうしても」
「ひょっとして、もう一人で観たとか」
「まだ観てない」
「じゃあ、誰かと一緒に行く約束してるとか」
即答で、「ううん、そんなことない」という返事を期待していた。ところが、黙って目を伏せる。え?!・・・まさか、別の奴と行くのか?え?二股?・・・まさか、まさか・・・俺はセカンドってことないよな。
「あのね・・・」
彼女は言いにくそうに、ポツリと言った。
「お父さんと行くの」
「え?」
「うちのお父さんね、アン・ハサウェイの大ファンなの。『プラダを着た悪魔』を観てから、ずっと追いかけてるのよ。それで、一緒に見に行く約束しててね」
俺は思った。なんて親孝行な子なんだろう。ますます好きになってしまった。

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