ほっこり親孝行ものがたり『第14回 同じカルチャーセンターの講座に通う』志賀内泰弘

買い物帰りに、「ちょっと付き合ってよ」と母に頼まれ、カルチャーセンターにやってきた。地元のテレビ局が運営するところで、初めて訪れてびっくりした。なんと1.000以上もの講座があるのだ。受講案内の冊子をもらい、そのまま二人で喫茶店に入った。
「なにか習いたいものがあるの?」と訊くと、「うん、俳句をね・・・」
という。なんでも、最近、中高年に俳句がブームになっているのだという。
「お母さんさあ、そんなこと言って、またすぐに止めちゃうんでしよ。もったいない」
母は、どんなことにも好奇心が強い。「いいなあ」と思ったら、すぐに始める。カメラ、フラダンス、パッチワーク、写経、お菓子作り、ヨガ・・・。でも、どれ一つ続いたものがない。ヨガなんて、3か月12回の申し込みをして、最初の一回で止めてしまったのだ。
「いやねぇ、あれはしょうがないでしょ。いきなり背筋違えたんだから」
「わかった、じゃあ、この『お試し俳句セミナー』っていうのにしようよ」
「え?どれどれ」
それは、2時間の一回だけの講座で、俳句の先生の「素晴らしい俳句の世界」という講演を1時間聞いたあと、俳句作りを体験してみるというものだ。
「う~ん、そうねぇ。いいかも」
「でしょ」
「ねえねえ、サエちゃん、お願いがあるんだけど・・・」
「なに?」
ということで、どういうわけか一緒に申し込むことになったしまった。でも、それは、すぐに後悔に変わった。俳句を始めたい人なんて、シニアに決まっている。案の定、会場に入ると、21名のうち若い人は自分だけ・・・いや、もう一人、自分と同じ30歳くらいの女性だけだった。なんだか、場違いなところへ来てしまった気分で、講演の最中から小さくなっていた。

さて、体験の時間が始まる前に、参加者全員が簡単に自己紹介することになった。別に、面接試験でもないのに、ドキドキする。もう一人の若い女性の順番になった。彼女はスクッと立ち上がると、言った。
「わたし、俳句なんてぜんぜん興味ないんです」
え!?会場に冷たい空気が流れた。
「でも、これ親孝行なんです。隣にいるのが母です。ずっと前から俳句を習いたいって言ってて。でも、腰が重くて。だから、今日、私が連れて来たんです。来週から始まる先生の連続講座も母と一緒に受講する予定です。そうしたら、飽きっぽい母も途中で止めずに続けられるんじゃなかいって思って」
他の参加者から、「へ~」「ほう」という溜息に似た声が響き渡った。

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