ちょっといい話『ユーミンですら・・・』志賀内泰弘

物書きをするようになって、20年ほどが経ちます。ベストセラーと呼ばれる本を出すこともできましたが、まだまだ、売上は満足いくものではありません。そこで、いつも悩むのが、「書きたいもの」と「売れるもの」の狭間です。

そこで編集者との戦いがあります。作家は、一人で本を書いているわけではありません。0の段階から、「今度は、どんな本にしましょうか」などと二人で相談をしたりします。「こんなもの書きたい」と言うと、「そんなの売れない」と厳しい言葉が返ってきます。

方針が決まり、書き上げて編集者に送ります。すると、細かな校正作業の前に、ダメ出しがあります。その本が小説なら、「主人公の性格が厳し過ぎる」「もっと読者に好かれるストーリーに」「このエピソードはコンプライアンス違反では?」

次々に厳しい言葉に責められ、凹みます。心の中では、「殴ってやろうか」「わかってない!と思ってはいますが、もちろん、グッと我慢します。でも、自分も正しいと思っている。ここで、激しい意見のぶつかり合いがあります。そして、譲るのか、押し通すのか、心の中で「葛藤」します。

さて、ある時、松田聖子さんの名曲「赤いスイートピー」の誕生秘話をテレビの音楽番組で観ました。

作詞を担当することが決まっていた松本隆さんは、プロデューサーの若松宗雄さんを通してユーミンこと松任谷由実さんに作曲を依頼しました。ユーミンは戸惑います。ライバルに曲を提供するわけです。
そこで、ユーミンは呉田軽穂というペンネームで引き受けます。ユーミンという知名度で引き受けるのではなく、もし曲調だけで人の心を引き付けることができたとしたら、作家冥利につきると。

ところが、書き上げた曲に、若松プロデューサーから「ダメ出し」が来ました。わざわざ、ユーミンのコンサート会場まで訪ねてこられ頼まれたそうです。人からダメ出しされるなど、初めてのことでした。それは、
「サビの部分を明るく春らしい曲に替えてほしい」
という依頼でした。ユーミンは、グッと堪えて、「I will follow you〜」というサビの部分の音程を上げたそうです。それが見事に当たり、大ヒット。松田聖子さん自身も、自分の歌の中で一番好きな曲だと言うほどの名曲になりました。

もうお分かりと思います。あのユーミンですら、プロデューサーのダメ出しに応じたのです。ましてや・・・世間の片隅で、いるかいないか存在すらわからない志賀内が何を生意気なことが言えようか。

昨日も、今日も、グッと堪えて編集者の「ダメ出し」「注文」「指摘」に耳を傾け、どうしたら納得してもらえるかに全精力を傾けます。謙虚であること。人の話をきちんと聞くこと。いいものを作るには、ギリギリの意見のせめぎ合いが大切であること。それを体感しています。

本はこうして、編集者と二人三脚で作られます。

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