ちょっといい話『花火大会の優しい思い出』志賀内泰弘

名古屋市の会社に勤める、古川貴大さんから若かりし頃の思い出の「ちょっといい話」が届きました。

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2019年8月10日に愛知県犬山市で開催される『日本ライン夏まつり納涼花火大会』に行きました。

駅の駐車場に車を停め、妻と子供二人と電車に乗りました。花火会場の駅に近づくにつれて、徐々に電車の中は人で一杯になり、我々の隣りに立っていた子供がわがままを言い出しました。

すかさず座っていた若者の男性が「席を譲りましょうか」と隣のそのご家族に席を譲ろうしましたが、そのご家族は「いいですよ」と断りました。

それから二駅ほど過ぎて、その男性は駅に着いたと同時に席を立ち、電車を降りました。しかし、目的の駅で降りようとした時、若者がまだその電車に乗っていることに気がつきました。その若者はもしかすると、「譲ります」と言っても断られることが分かったので、何も言わずに電車を降りるふりをして、席を譲ろうとしたのかもしれません。

花火が終わると凄まじく混雑するので、花火が終わる前に帰路に就くことにしました。花火会場から歩いて駅に向かうと既に駅の外には長蛇の列ができており、駅のホームも人でごった返していました。

待ちに待った電車が到着すると、私はベビーカーを車両入口脇スペースに置き、妻にベビーカーを任せ、息子を抱えて車両の端に移動しました。車両には次から次へと人が入り車内は超満員。駅員がさらに乗り込もうとする人を制止するかたちで電車のドアが閉まりました。

電車が出発し次の駅に着くと、既に無い隙間に更に人の波が押し寄せてきました。妻は車両奥へとおされ、手で支えていたベビーカーを離さざるを得ませんでした。折りたたんだベビーカーは、超満員の人に押されて姿勢を保つことができていましたが、それからさらに二駅ほど過ぎたところで、徐々に電車に隙間ができ始めました。

そうなるとベビーカーは自立できずに倒れてしまうのですが、そのことに気がついた若者のカップルが「ベビーカーが放置されている」と言いながらベビーカーを二人で支えてくれました。本来であれば、祭りでの疲れや満員の電車の中でストレスも溜まっているだろうこの状況で、誰のものかも分からないベビーカーを支えてもらい、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

さらに二駅進み、ようやく降車駅に到着しました。満員電車の端に位置していた私は「降りま~す」と言いながら、息子を右手で抱え、左手で娘の手をひき電車の出口に向かいました。

妻はベビーカーを支えてくれていたカップルに「ありがとうございます」と言ってベビーカーを受け取り、続いて私は「放置してすみませんでした」と謝りました。と次の瞬間“プシュー”と音が鳴りドアが閉まり始めました。

「降りまーす!」咄嗟に私は声を出しましたが、その声は無常にも駅員には届かずドアが閉まってしまいました。暑さと疲労でヘトヘトだった私が気を落として間もなく、何やら車両の様子がおかしいことに気がつきました。

先ほど閉まったドアを見ると、浴衣を着た若い女性の手がドアに挟まれ、そのまま電車が動き始めました。女性の手は大丈夫かと心配しましたが、少しして女性が手を強引に引き抜くことができ事なきを得ました。おそらく私の「降りまーす!」の声を聴いて、その女性が手でドアが閉まるのを防ごうとしてくれたようです。

またしても申し訳ない気持ちになりましたが、同時にその女性の勇敢さや行動力には驚きました。

娘に喜んでもらうために出かけた花火大会でしたが、結局、娘には音が怖いと喜んでもらえませんでした。しかし、多くの人の優しさに触れ、良い一日だったと思うことができました。

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