ちょっといい話『辛抱することの賛否両論』志賀内泰弘

今日のお話は、「いい話」のようで、そうとも言い切れない。少々、悩ましいお話です。

友人から相談を受けました。有名大学を卒業した息子さんが、せっかく人気の大手企業に就職して喜んでいたら、辞めてしまったというのです。理由は、
「上司や先輩から嫌な事を言われたから」
というのです。もともと、優秀なのですぐに次の就職先が見つかりました。ところが、そこも、
「営業の仕事が向かないことがわかった」
といい早々に退職。
「自分はコミュニケーションをはかるのが苦手で、人と関わる仕事はしたくない」
と、ニートになってしまったというのです。

その息子さんに会ってみると、真面目で明るくて好青年に思えました。普通に会話もできます。さらに、とてもお婆ちゃん思いの優しい子なのです。

父親は、何度も「辛抱することの大切さ」や「人との付き合い方」を説いたそうです。しかし、無理に辛抱して仕事を続けさせることがいいのか悪いのか悩んでしまったそうです。

昨今、過労死や、パワハラ・セクハラに遭い「うつ」になったことから自殺に追い込まれる事件が後を絶ちません。辛抱が良いとは限らないからです。

う~ん、困りました。
「サラリーマンは我慢して給料をもらうもんだ」
とか、
「嫌なことを言う人でも、相手のいい所を探してみたら」
とか、
「口下手の人ほど、聞き上手で営業に向いていると言われるんだよ」
とか、いろいろ頭の中に描きはしたのですが、口にするのをためらいました。志賀内はサラリーマン時代、上司のパワハラを2年間耐えに耐えたあげく、倒れてしまい生死を彷徨ったことがあるからです。

さて、その翌年のことです。再び、その友人と会った時、こんな話を聞きました。今度は、次男の話です。
兄とは違い、弟はできが悪くて親としては、将来が心配でたまらなかったそうです。

小学生の時から、通知表はずっと低空飛行。いまだに分数どころか、九九さえも怪しい。塾に通わせたけれど、いっこうに成績は上がらない。本人に問うと、覚えようとはするけれど、頭に入らないというそうです。このままでは、社会の落ちこぼれで、ホームレスになってしまうのではないか。

しかし、その次男さんは、野球が大好きで、上手くはないけれど部活が毎日楽しみで仕方がなかったそうです。中学3年生のとき、進学担当の先生の紹介で、ある私立高校の野球部の監督と会いました。

両親も一緒です。その席で、監督さんは、こうおっしゃったそうです。

「野球が好きなら、うちの高校に来ないか。3年間、野球部を辞めずに続けて高校を卒業できたら、就職先を紹介してあげよう。確約ではないけれど、私も努力しよう」

次男さんは、その高校に監督の推薦をもらって進学しました。ときおり、甲子園の地区大会で名前の挙がる野球部ということもあり、野球部員は大勢いたそうです。次男さんは二軍にも入れません。

ランニングやストレッチ、キャッチボールなどの基礎練習はみんなと一緒にしますが、たいていは球拾いとか、道具の整理ばかりの日々。卒業するまで、おそらく一回も試合に出られる可能性はゼロと思われました。それでも、辞めるどころか、一日も休まず部活を続けました。

3年生の就職活動の季節がやって来ました。高校での勉強の成績は、もちろん惨憺たるもので、普通ではどこも受からないと思われました。

しかし、監督が3年前の約束通り、大企業に推薦してくれ、見事に合格したのです。なんと、東証一部上場のメーカーです。
「よく辛抱して続けたな」
と、試合に出られないのに、途中で投げ出さずに頑張ったので推薦してくれたのです。企業も、監督の推薦理由を評価したのでした。

話は続きます。そこまで成績が悪いと、社会人としてやっていけないのではないか。またまた両親の不安は募りました。
ところが・・・。
次男さんは、配属された配送センターで、メチャクチャ先輩たちに可愛がられているというのです。特に、年輩の女性たち、つまりオバチャンたちに。毎日、お昼の休憩時間になると、声を掛けられて一緒にランチします。

オバチャンたちが持って来たお弁当のおかずを、
「これ食べなさいよ」
「こっちも美味しいよ」
と、みんなが分けてくれる。ここで、疑問が湧きました。どんな性格なのだろうと。次男さんには会ったことがないので、人柄がわからないのです。

 父親いわく、
 「人と話をするのが下手で、まともに受け答えができないんです。でも、人に何を言われてもニコニコしているんです。野球部の時には、注意されたにもかかわらずニコニコ笑っているので、『何笑ってるんだ!ふざけるな』と怒られたこともるそうですが、そのうち『あいつは憎めない奴だ』というキャラが定着して、みんなに可愛がられるようになったのです。たぶん、会社でも同じなんでしょう」
と。
 
次男さんは、いまのところ彼女がいないので、休日には家でボーとしています。それを知ったオバチャンたちが、
「バーべーキューするから、一緒に行こう」
と誘ってくれるようになったそうです。さらに、
「今度、引っ越しするんだけど、手伝ってくれない」
と頼まれ、嫌な顔一つせず、ホイホイと休日に出掛けるのだといいます。そんな次男さんは、
「会社が楽しい」
と言っているそうです。

訊きにくいことを訊きました。
「ところで、お兄ちゃんはどうしてる?」
「うちでニートしてるよ。まあ、健康だから、有難いけどね」
友人は、少し言いにくそうでしたが、それは本心の言葉のように思えました。

思いました。人生ってわからないものだなあ。そして、「辛抱」ということについて考えました。辛抱し過ぎて病気になってしまってはいけません。でも、何事も辛抱して続けないと、実ることはありません。

ニートの長男さんも、自分に合わない職場に早く見切りをつけたことが正解だったかもしれません。しかし、両親がいつまで健康で手助けしてくれるかわかりません。

もちろん、次男さんだって・・・。就職した会社の行く末は、誰にもわかりません。もし、リストラさられた・・・。この兄弟は、これからどんな人生を歩んでゆくのか。それぞれの生き方に、賛否両論あると思います。答は、藪の中です。

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