ちょっといい話『コロナ禍で応援したくなるお店』志賀内泰弘

このコロナ禍で、日本経済はたいへんな状況になっています。特に影響が大きい業種の一つが、飲食店です。生き残りをかけて、「安心」「安全」をお客様に提供できるように、さまざまな対策が取られています。

店内に入る際の検温と消毒。「三密」を避けるために席の間隔を空け、アクリル板で仕切る。窓を開けて空気の入れ替え。スタッフはマスクシェードをはめ、お客様との距離を保つ。お店で働く人たちは感染に対する不安以上に、気遣いのストレスが大きいことと思います。

非常事態宣言が解除されて早々のことです。延期していた出張に出掛けました。まだなんとなく飲食店内で過ごすのが不安だったため、駅のコンコースにあるカフェでコーヒーのテイクアウトをしました。

ところが、です。注文がなかなか通じないのです。それもそのはず。お互いにマスクをしているので、声が籠ってしまう。レジのアクリル板のせいで、よほど大声でないと相手の声が聞こえない。結局、ミスオーダーでしたがスタッフさんに嫌な思いをさせるのもはばかられ、そのまま商品を受け取り支払いました。きっと、日本中、いや世界中でこんな「行き違い」が起きているのではないでしょうか。

こんなことも。ホテルのラウンジでのことです。午前10時。朝食が軽かったので早めにホテル内のレストランでランチをしようと思いました。
「地下の中華レストランには天津飯がランチメニューにあるか聞いていただけますか」
と、スタッフさんに尋ねました。すると、しばらくして・・・。
「天津飯はございます。二千円です。11時半からの営業になっております」
いくら高級ホテルとはいえ、たかが(?)天津飯が二千円もするので、わざわざ値段まで教えて下さったのだと思いました。11時半までそのままラウンジでコーヒーを飲みながら仕事をして待ち、その中華レストランへ行きました。
すると・・・。
「あいにくですが、ご予約で満席でございます。コロナ対策でお席の数を少なく設定しておりまして、最近は予約がございませんとなかなかお食事していただくのが難しい状態になっております。申し訳ございません」
言葉を失い、立ちすくみました。1時間半も待ったのに。明らかにスタッフのミスです。ずっと以前からその地域でNo.1として知られるホテルです。腹が立つよりも、同情してしまいました。
(ああ、ホテルのみなさんも疲れているんだなぁ)

この話を別のホテルのマネージャーさんにすると、こう言われました。
「志賀内さん、実は接客業の現場サービスのレベルが落ちているんです。感染対策にばかり意識が傾いてしまい、本来の『おもてなし』がおざなりになってしまっているのです。安全・安心な場を提供することで精一杯。それがサービスの上限になってしまっているからです」
う~ん。なんとも辛い話です。接客の仕事に携わる人たちは、デスクワークができる人たちに比べて格段に感染のリスクが高い。この状況で「おもてなし」を求めるのは酷なのでしょうか。

さて、最近、新しく通うようになったカフェがあります。どうしても引き籠りがちな生活の中で、運動不足防止のため散歩の時間を増やすようにしました。その散歩の途中で偶然見つけて、フラリと入ったのです。扉や窓を開け放ち、全席がオープンテラスのようになっているのが、この時期には魅力でした。間違いなく、「密」にならないようにとの配慮からでしょう。

このお店でモーニングを食べます。バターを塗った分厚い抹茶トーストに、あんことホイップクリームが付いてきます。何回か目に訪れた時のことでした。小皿にあんこしか乗っていないのです。

最初は、何かの間違いかとも思いましたが、すぐに理解できました。私はクリームが苦手なので、いつも残してしまうのです。お皿を片付ける際に気付き、気遣って下さったのに違いありません。もちろん、あんこの量は二倍になっていました。カウンターのママさんに、遠巻きにペコリと頭を下げるとニッコリと微笑んでくれました。

さらに数日後のことです。コーヒーを注文すると個別包装のクッキーが添えられてきます。これもあまり好みではなかったので、いつも食べずにそのままにして帰っていました。その日、コーヒーの横に置かれたのは、ナッツでした。アーモンドとクルミとカシューナッツです。

「あっ!」と思い、マスターの顔を見上げると、「こちらも苦手ですか?」と言われるので、「いえ、ナッツ大好きです」と答えました。

「おもてなし」って、まさしくこういうことなのだと思いました。目の前の相手に、何をしたら喜んでいただけるのか。それを常に考え続けて実行する。そこにはマニュアルはありません。人間は100人いたら100人違うのですから。

一ヶ月ほどして、お店の「常連」になった頃、ママさんとマスターに尋ねました。
「コロナ禍でたいへんですよね」
「夫婦で開業してまだ3年なんです。お客様も増えてようやく安定してきところへ、この騒動。安心してコーヒーを楽しんでいただけるために、できるかぎりのことをしています」
と。

常連になった私には、お気に入りの席があります。でも、いつもその席が空いているわけではありません。他の席に座って仕事や読書に夢中になっていると、ママさんかマスターが声をかけてくれます。

「いつものお席空きましたけど、代わられますか?」

このお店のことを応援したくなり、何人も友人たちを連れていきました。

コロナ禍で日本中がたいへんです。お店には何の責任もありません。これを不条理と呼ぶのでしょう。ウイルス対策だけでたいへんではありますが、「もっともっと」と、お客様に快適に過ごしてもらおうと努力しているお店が生き残っていくに違いありません。

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