ちょっといい話『デジタルのサービス、アナログのおもてなし』志賀内泰弘

元・ザ・リッツカールトン・ホテル日本社長・高野登さんは、こんなことをおっしゃっています。

外食チェーンで食事をすると、テーブルの片隅に「呼び出しボタン」が置いてある。たぶん当初は、より迅速に正確に料理を提供するために設けられたに違いない。しかし、それが普及することで、スタッフの働き方を変えてしまったと言います。

呼び鈴が鳴ったら行けばいい。それは、やがて呼び鈴が鳴るまで行かなくてもいい、に変わる。高野さんが居酒屋に入った時、テーブルの前を通った店の人に、「すみません」と声をかけたら、「呼び出しボタンを押してください」と素通りされたことがあるそうです。これが笑い話とは思えないことは恐ろしくなります。

呼び出しボタンって、デジダルだと思うのです。
押せば来る。
それは間違いない。
でも、ただそれだけ。

年輩の人から、車のカーナビを利用するようになって、道が覚えられなくなった、という話をよく聞きます。かくいう志賀内もその一人。何度も訪ねている先なのに、道がわからない。カーナビが普及する以前は、いちいち自分で地図を開いてルートを考えたり、目的地までの道筋を教え合ったりしたものです。だから、道が覚えられました。自分の頭で考えなくなったからです。
 
さて、「サービス」と「おもてなし」は、どこが違うのか。そうです。「おもてなし」と、「アナログ」なんですね。臨機応変、フレキシブルなんです。志賀内は、マニュアルに基づく決まり切った接客のことを、勝手に「カーナビ・サービス」とか「デジタル・サービス」呼んでいます。その違いは、どこにあるのか。これも、高野さんの言葉を借りて説明しましょう。

「おもてなし」とは、日本人があいだ大事にしてきた感性を一言で表す概念であり、「以って、為す」から生まれたのだいいます。そこには、日本人が立ち返るべき原点、すなわち働き方の原点であると説いておられます。それは、具体的にどういうことか。

例えば、ザ・リッツカールトン・ホテルにとっての「以って、為す」は、「お客様との出会いに感謝することを以って、大切なご縁を紡ぐことを為す」。また、「ことばにされない要望や願望を満たすことを以って、相手の心に驚きやよろこびなど、ワクワクとした思いを届けることを為す」ことだというのです。

なるほど。その人の「生き方」「生き様」が、人と接する時に「おもてなし」という「形」となって現れるわけですね。

自分はどう生きるか。
どう生きたいか。
どんな人生にしたいか。
幸せって、何だろう?
幸せになるには、どうしたらいいのかな? 
それをいつも考えると、見えてくるものがあります。
そうか!
人の役に立つこと。
周りを喜ばすこと。
すると、笑顔が返ってくる。
「ありがとう」って言われる。
すると、仕事が楽しい。
もっと、もっと喜んでもらいたくなる。

そうして、「人間力」を磨き続けると、「アナログのおもてなし」ができるようになる。

でも、こんな反論もあるでしょう。
マニュアル通り、きちんとやっていれば、給料がもらえる。
そんなに欲張らなくても、食べて埋ける・・・。

たしかに、そうですね。
でも、でも・・・。
マニュアルでできる範囲のことって、
そのうち、AIロボットにとって代わるのではないかな~。
いや、もうそういう時代は来ていますよね。

最後に、
拙著「毎日が楽しくなる17の物語」(PHP研究所)から、こんなお話を転載させていただきます。

     *     *     *     *     *
              
東京の神楽坂に友人を訪ねたときのことです。夕食に、「おいしいそば屋さんがある」と連れていかれました。
食事の後、いつものように薬袋を取り出します。今日はお茶で飲もうか、それともそば湯で…などと考えつつ錠剤を一回分手にした瞬間のことでした。
目の前にトンッとコップが置かれたのです。
店のおばちゃんが私の様子を見ていて、頼んでもいないのに気を利かせてくれたのでした。うれしいことに、氷が入っていません。
「ありがとう!」
と言って、口に含んでから、さらに驚きました。
ほんのり温かいではありませんか!
なんと「白湯(さゆ)」だったのです。
そのおばちゃんも薬が手放せないのでしょうか。おばちゃんの方を見て会釈をすると、ニッコリ微笑んでくれました。
たかが、ティッシュ配り。
たかがお茶汲み。
そして、たかが、お水。
心憎い配慮に脱帽でした。

     *     *     *     *     *

(参考図書)
高野登著「あえて、つながらない生き方」(ポプラ新書)

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