ちょっといい話『飯沼一洋さんを偲ぶ会』志賀内泰弘

訃報が届きました。以前、拙著『なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか?』を編集してくれたダイヤモンド社の飯沼一洋さんが亡くなったというのです。言葉を失い、彼との思い出が、走馬灯のように頭の中をグルグルと回りました。

電話をくれたのは、飯沼さんの上司でもある編集長のTさんでした。
「突然のことで、受け入れることができないんです」
と。私も同じです。二人して、飯沼さんの「思い出」を語り合いました。

しばらくして、「偲ぶ会」を催すというので、上京しました。気軽な小規模の集いを想像していたら・・・。なんと、200名、いや300名くらいの人たちで会場はいっぱいでした。まるで、テレビで見る著名な芸能人の「偲ぶ会」のようです。なにしろ、ベストセラーを連発してきた伝説の編集者。彼の編集した本のタイトルをご覧いただけたら、「ああ、これもこれも読んだことがある」と思われることでしょう。

• 『1分間勉強法』(石井貴士 著/中経出版)54万部
• 『100%幸せな1%の人々』(小林正観 著/中経出版)22万部
• 『億万長者 専門学校』(クリス岡崎 著/中経出版) シリーズ20万部
• 『仕事の5力』(白潟敏朗 著/中経出版)12万部
• 『上司のすごいしかけ』(白潟敏朗 著/中経出版)11万部
• 『1分間英単語1600』(石井貴士 著/中経出版)12万部
• 『トヨタのできる人の仕事ぶり』(石井住枝/中経出版)シリーズ10万部
• 『アツイ コトバ』(杉村太郎 著/中経出版)シリーズ10万部
• 『英語は「インド式」で学べ!』(安田正 著/ダイヤモンド社)10.5万部
• 『大富豪アニキの教え』(兄貴 著/ダイヤモンド社)13万部
その他、『ありがとうの神様』(小林正観著、ダイヤモンド社)の「ありがとう」シリーズも。

各界に人脈が広く、参加者は出版社関係とは限りませんでした。ビデオで流されたメッセージは、行きつけの居酒屋の美容室のオーナーさんでした。編集長Tさんと同じく、志賀内も彼がいなくなったことを容易に受け入れることができないでいるのには、「思い出」に加えて別の理由もあります。

「また本を一緒に作りませんか?」と言われ、進行中の出来事だったからです。もうおおよその原稿も出来上がっていたのです。

「ここは、どうしましょう?」
「また、ダメ出しするんでしょ」
などと、やり取りすることもかなわない。

「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動の月刊紙「プチ紳士からの手紙」(2013年7月号)の「心のビタミンいい話」に掲載した、飯沼さんにまつわるお話を、追悼の意を込めてここに掲載させていただきます。

     *     *     *     *

3年前、『なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか?』という本を出版しました。おかげさまで拙著では一番売れ、全国の方から感想の手紙がたくさん届きました。本当に嬉しい。作者冥利に尽きます。でも、これは私一人の力ではありません。編集者が「読みやすく」「伝わりやすく」作ってくれたから、売れたのです。それがカリスマ編集者と呼ばれているダイヤモンド社の飯沼一洋さんです。

飯沼さんは、4度も「日本年間ベスト10」に担当本をランクインさせています。なぜ、ベストセラーを生み出せるのか。お付き合いさせていただく中で、徐々にその秘密が解き明かされていきました。

この『なぜ「そうじ」…』の本を編集して下さることになった時、
「名古屋へ会いに行きます」
と言われました。「いえいえ、私が上京します」と言うと、こう返答されました。
「これが私のポリシーなんです。本を作らせていただく際には、最初は私の方から会いに行くと決めているのです。全国どこへでも」

私は感心して言葉に甘えることにしました。その後、打ち合わせの度に、飯沼さんのさらなる奇行(?)を知ることになりました。彼は社内で電話が鳴ると、誰よりも早く取ってきたと言います。もっと若い社員やアルバイトの人よりも早く。その時、没頭している仕事の妨げになったとしても電話を優先する。それが、自分ためだけに仕事をしているのではないという現れなのです。トイレに行くと、トイレットペーパーを必ず三角折にして出てくる。これも、後から入る人が気持ちよくなれるための気遣いだそうです。

こんなことがありました。
『なぜ「そうじ」…』の本の校正をしている時、飯沼さんから、あるフレーズを訂正する提案がありました。それはたった3文字でした。彼の説明は極めて論理的でしたが、私にも「こだわり」がありました。私の意見を説明しました。
「どうしても…、でなければ変えたくありません。このままではいけませんか?」
と。すると飯沼さんは答えました。
「もちろん、原稿は著者のものなので、最終的には著者の意見を尊重します。この3文字を訂正しても、本の売上には0.1%も影響しないでしょう。いや、おそらく0.01%も」
「では、こままでお願いします」
「でも……本の売上とは、そういった0.01%を良くしていこうという積み重ねの結果だと思うのです。ここで、0.01%程度だから、どちらでもいいと、妥協することは好ましくありません」

私は、その瞬間、身体がブルブルと震えました。よく言われます。「小事は大事」と。目の前の些細なことをないがしろにしていては、大きなことはできない。小事の積み重ねが大きな結果を生む。しかし、言うは易し行うは難し。私は、たった「3文字」だからと、真剣に考えていなかったのです。

今一度、その3文字について激論を戦わせ、その結果、納得して彼の言う通りに訂正しました。次から次へと訂正の相談が来ました。そんな0.01%のこだわりが、各ページに何か所もあるような本になりました。私は、もうヘトヘトでしたが、出来上がったときの達成感は何物にも代えがたいものがありました。

さて、本が完成しました。飯沼さんは言いました。
「出来上がったばかりの本をお持ちします」
「いえいえ、早く見たいのは山々ですが、急ぎませんから、宅急便で送ってください」
「これも私のポリシーなのです。刷り上がった最初の本を、著者の元へ自分の手で届けることにしているのです」

参りました。最初にお目にかかってから8か月が経っており、かなり彼の人柄や行動を理解していたので、「わかりました」と応じました。名古屋駅の居酒屋で、出来上がったばかりの本を真ん中に置いて、5時間語り合いました。

初めて、彼のそれまで歩んで来た人生の話を聴きました。本が一冊書けるほどの苦労人であることがわかりました。どん底から、カリスマ編集者と呼ばれるところまで這い上がってきたことを知りました。そして、すべてが合致したのです。
「だから……カリスマなのだ」
と。ビールを飲みながら、彼は、何度も何度も、目の前の本の表紙を撫ぜました。そして、こう言いました。
「本をこうして撫ぜてやると売れるんです」
そう言い、彼は猫の身体に触れるように優しく本を撫でました。何度も、何度も。私はもう言葉もありませんでした。こんなスゴイ人に編集してもらい幸せだと思いました。

     *     *     *     *

『なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか?』が出版された時、もう二度と、飯沼さんとは仕事をしたくないと思いました。売れたのに、そう思ったのです。感謝したのに、もう御免だと思ったのでした。厳しくて、厳しくて、メチャクチャ辛かったからです。

でも、時が経つにつれて、不思議な思いが心の中に芽生えました。
「あの苦しみは、喜びの苦しみだったのではないか?」
だから、「また本を一緒に作りませんか?」と言われた時、「ぜひ!」と即答していました。また「苦しみ」を味わうことを承知で。

でも、もう苦しむことができません。
「どうしてくれるんだ!飯沼さん!」

仕事は厳しいけれど、とても暖かくて優しい人でした。本が出た直後のことです。志賀内はカミさんが、がんに罹っていることが判明し、何も治療しなければ余命は3、4か月と言われました。辛くて辛くて、何も手がつかず落ち込んでいた時のことです。飯沼さんは、電話で何十分も黙って話を聴いてくれました。電話を切る直前に、ポツリと言われました。
「奥さんの快癒を祈って、あとがきに奥さんへのメッセージを追記しませんか?」
その提案で、次の重版がかかったタイミングでこの二行を加えました。
「さらに、さらに。「今日もちゃんとそうじをしたの?」と、サボリがちな私を毎日励ましてくれる最愛の妻に感謝いたします」
と。

ありがとう。今頃、先に逝って待っていたうちのカミサンと、私の話でもしているのでしょうか。45歳。若すぎる。まだまだ、やりたいことがいっぱいあったはず。ただ、ただ、心より飯沼さんのご冥福をお祈りします。

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