『妙心寺の掲示板』|ちょっといい話 志賀内泰弘

目標を達成したり、自分に課したノルマを継続するために有効な方法があります。
それは、宣言することです。

たとえば、ダイエットをしようと決めたら、SNSで、
「今日からダイエット始めます。いついつまでに、目標〇〇キロ」
と、公開するのです。要するに引っ込みがつかなくなって、実践してしまうという訳です。

妻を亡くして5年が経ちました。当時の私は、まさしく抜け殻で、何もする気力がありませんでした。
でも、多くの友人たちに励まされ、少しずつ再生していきます。
そのうち、
「こんなことではダメだ」
「前向きに生きよう」
と考えるようになります。

ただ、心の中には「無常観」が漂っていました。私よりも健康だと思っていた妻が先にあの世に逝ってしまったことで、
「人はいつ死ぬかわからない」
「死とは歳の順番に訪れるものではないのだ」
ということが、実感として心に覆いかぶさっていたからです。

そこで、私は、人に会う度、こう口にするようになりました。
「明日死んじゃうかもしれないから」
これに続く言葉があります。
「明日死んじゃうかもしれないから・・・美味しいものを食べる」
「明日死んじゃうかもしれないから・・・行きたいと思っていたところへ旅行に行く」
「明日死んじゃうかもしれないから・・・会いたい人に会いに行く」
「明日死んじゃうかもしれないから・・・書きたかった小説を書く」

「明日死んじゃうかもしれないから」
と耳にすると、多くの人は眉をしかめます。
「縁起でもないよ」
と言う人もいます。でも、これは私自身が、自分に向けて、こう宣言している言葉なのでした。

「明日死んじゃうかもしれないから、今日とという一日を大切に生きよう。もし明日死んだとしても後悔しない生き方をしよう」

そうは言うものの、「今日一日を大切に生きる」というのは、言葉にすることはできても、実際に行うのは難しいものです。夜、眠る前に、一日を振り返ってみます。すると、いかにダラダラと過ごした時間が多いことに気付くのです。

さて、おかげさまで、「京都祇園もも吉庵のあまから帖」シリーズの第5巻が、発売早々に重版になりました。シリーズが続くと言うのは嬉しいことですが、次々と締め切りが訪れるということでもあります。訪れるというより、襲ってくるという感覚の方が近いかもしれません。

とにかく、取材のために、京都へ通っています。どこまでが遊びで、どこからが取材か境目が自分でもわからないのですが、お寺の掲示板はネタの宝庫なので注意してみています。

妙心寺を訪ねた時、山門の脇の掲示板に、こんな言葉を見つけました。

「守れ時間
 惜しめ時間
 活かせ時間
 時間は生命だ」

聖路加国際病院の名誉院長の日野原重明さんは、こう言っておられました。
「時間は生命(いのち)」だと。
寿命が100年とすると、それは100年という時間なのですね。
ということは、「今日」という日の24時間。
ドラマを1本見る50分。
スマホでSNSをチェックする10分。
さらに、今この瞬間の0.01秒も「いのち」なのです。
それこそ、縁起でもない言い方になりますが、「今、この瞬間」も、確実に「死」へ進んでいるということを忘れてはならないのです。

では、どうしたらいいのか。
「明日死んじゃうかもしれない」
と言うのであれば、今というこの時間をどう生きたらいいのか、ということが課題になります。
その具体的な方法が、掲示板にありました。

そうです。
時間を守る。
時間を惜しむ。
時間を活かす。

しかし、これほど難しいことはありません。
昨日も、どうでもいいテレビを見てしまいました。
今日こそ、時間を守り、惜しみ、活かしたいと思います。

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