『誰もがハンディを持っている』|ちょっといい話 志賀内泰弘

少し旧聞になります。

今年の元旦に、20年来お世話になっている担当編集者のОさんからこんな年賀状が届きました。それは、こんな内容です。

         
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      謹賀新年

旧年中はお世話になりました。
「いままで登った一番高いところはどこ?」
ダウン症の書家、金澤翔子さんは、ニューヨークのロックフェラービルでの取材で、記者から問われ、「お父さんの肩車!」と答えました。
どんな高いビルの最上階よりも、亡き父の肩の上のほうが高かったという。この挿話はいつ聞いても、涙がこぼれます。
お母様の泰子さんは、翔子さんがダウン症の子として生まれたとき、「世界で一番不幸な母親」と嘆いたそうですが、いまは「世界で一番幸せな母親」と仰っています。
それは、翔子さんが五歳からひたすら書の稽古に励み、いまや世界中で個展を開くようになったこともさることながら、それ以上に、翔子さんがその魂の感受性の高さを生来宿し続けているからでしょう。
様々なことができないというハンディはあっても、心根の優しさを誰よりも持っている。ないものを憂えず、あるもので積極的に生きる。金澤さん親子に教えらえれた、そんな「しあわせの鍵」を2022年の自身のテーマにしたいと思います。
本年もよろしくお願いいたします。

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目に留まったのは、
「ないものを憂えず、あるもので積極的に生きる」
というところです。
 
世界的に有名な書家である金沢翔子さんをご存じでしょうか。お母さんの金沢泰子さんも書家でした。42歳で翔子さんを高齢出産。ところが、新生児期に敗血症にかかり、後にダウン症と診断されます。

泰子さんは、その事実を知り翔子さんとともに命を絶とうと思います。しかし、僅かながらも成長してゆく我が子を見て、思い止まりました。

翔子さんは5歳の時、泰子さんに師事して書道を始めます。最初は、普通学級の小学校に通っていましたが、4年生の時、特別支援学級に移るように言われてショックを受けました。それがきっかけで、一時、不登校になります。

しかし、このことが幸いに転じる元となりました。家にいる間、泰子さんの指導で、翔子さんは大きな紙に般若心経を書きました。それは後に、その276文字が「涙の般若心経」と呼ばれて話題となります。

翔子さんは、伊勢神宮や東大寺をはじめとして名だたる寺院仏閣に奉納揮毫されています。ニューヨーク、チェコ、シンガポールなど世界中で個展を開き、ローマ教皇庁から金メダルを授与されたり、国連本部でスピーチもされています。

もし、泰子さんと二人で、あの世に逝っていたら、こんな活躍はありませんでした。まさしく、「ないものを憂えず、あるもので積極的に生きる」ことで、花が開いたのですね。

Оさんの年賀状を手にして、ふと、思い出したのは、学生時代に見た1本の映画でした。永六輔さんが唯一、主演をした「春男の翔んだ空」という作品です。

それは、福岡県小倉市の小学校で教鞭を執られていた野杉春男さんの伝記映画です。永六輔さん演じる春男は、北九州で二番目の精神薄弱児身障児学級「すみれ学級」ができたことを知り、自ら志願して同校の教師となります。

1977年公開の映画で、内容はほとんど記憶がありません。しかし、春男のこんなセリフだけが記憶に残っているのです。それは、児童が授業中に「おもらし」してしまったパンツを、校庭の片隅の洗い場で洗濯しているシーンでした。

春男(永六輔さん)は言います。

「誰もが視力が悪いとか、耳が聞こえにくいとか、人よりも劣っているところを持っている。この子たちは、ただ脳の機能が低いというだけで、人よりも劣っている部分が違うだけなのだ」

おぼろげな記憶で正確ではありませんが、このような内容でした。なぜ、覚えていたのかわかりません。ひょっとすると、私の弟が、小児麻痺で心身に障がいがあるからかもしれません。

ダウン症のような病気だったり、目が見えなかったり、手や足が動かなかったり・・・そんな大きなことではなくても、人は何らかのハンディを抱えているものです。

例えば、家が貧しかったり、親の介護をしなくてはならなかったり、話下手で人付き合いが苦手だったり、いつも胃の調子が優れなかったり、気が弱くて試験という試験の本番に弱かったり、容姿をからかわれて幼い頃からイジメに遭い続けていたり、親の借金を背負って四苦八苦の生活だったり・・・。

他人よりも「マイナス」のところを卑下するよりも、誰でもハンディを持っているものだ、と考えた方が気が楽になります。

「できない」言い訳を自分のハンディのせいにするより、「みんななんらかのハンディを抱えた中で頑張っているんだ」と思うと、できない「言い訳」をするのが恥ずかしくなります。

さらに、さらに、
「誰もが視力が悪いとか、耳が聞こえにくいとか、人よりも劣っているところを持っている。この子たちは、ただ脳の機能が低いというだけで、人よりも劣っている部分が違うだけなのだ」

と思うと、心身に障がいのある人に対して、心の無意識下のある差別意識も薄らぎます。

行動に制限を強いられる生活も、もう二年です。
「ないものを憂えず、あるもので積極的に生きる」
という気持ちを強く持って、前に進んで生きたいと思うこの頃です。

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